事件現場清掃人 死と生を看取る者 / 高江洲敦


 事件現場清掃とは、その人の死に至るまでの人生を追体験するような仕事であり、どの現場も決して生やさしいものではない。そんな中でも本書は、著者自身がもっとも苦しい思いをした現場のことが綴ってあるという。

 東日本大震災、度重なる災害、そしてコロナ禍。不安と孤独に蝕まれる現代の日本で、心ならずも倒れた部屋の主たち。その「痕跡」から見えてくる、壮絶な生と死の物語。

 本物の「事故物件」の間取り図や写真が結構掲載されていますが、それが妙に生々しさを誇張している印象です。

 私もあなたも間違いなく、人は誰もが死ぬ。そして死人は喋れないが、生者は何とかして残された物からその死者の声を聞き取ろうする。警察の捜査が終わったあとで清掃に入るとはいえ、死者から感じ取れる心情や最後に取った行動が、これほどまでに感じ取りながら想像できるものなのか。

 

 著者は「自死」「孤独死」「殺人」など様々な現場の経験していますが、人の繋がりが希薄化する現代の仕組みにより、おそらく「孤独死」はもっと増えるのでは無いかと警笛を鳴らしています。

 よく「誰の世話にもならないであの世に行きたい」という人がいる。しかし実際は、誰かが役所に届けを出さなければならないし、葬儀も出すだろう。焼いた骨もどこかに収めなければならない。死者が自ら完結できることなど不可能なことです。

 しかし、本書に登場した死人たちは、確実に病院で病死する人とは比べ物にならないくらい、他人に迷惑をかけています。最初は悲しいのかも知れないが、時間が経つたび、人を経由すれば「悲しさ」は「気持ち悪さ」に変わり「憎しみ」まで変化するのかも知れない。

 このような仕事は「誰かがやらなければならない」のは間違いなく事実である。そんな仕事に誇りと使命感を持って接する著者に尊敬の念を抱ける、そんな1冊でありました。

09 th in December / 313 th in 2023