火葬場奇談 1万人の遺体を見送った男が語る焼き場の裏側 / 下駄華緒


 火葬技師として働いた著者が、自分の経験をもとに語られた、火葬場にまつわる裏事情や様々なエピソードが語られている、とても興味深いドキュメンタリーです。

 御遺体は焼いている最中に動くという。言われてみれば確かにそうです。肉や魚は焼けば動く。スルメなどがわかりやすい例だろう。黙って焼くとファイティングポーズの様に成るという。

 では、なぜ拾骨する時は「気をつけ」の姿勢で骨になっているのか。焼いている最中から動いた御遺体に長い棒で整えたり、焼いた後に「整骨」といって骨を「気をつけ」の姿勢に整えるという。

 肉や魚を焼くと「汁」が出る。人間も焼かれると様々な液体が、体外に飛び散るという。液体は燃焼の妨げになるため、御遺体から液体が飛び出してきた時、故人がみずから水分を出して所要時間を短縮してくれていると考え「お手数おかけします」と、心のなかで唱えるという。

 本書を読んで、火葬とはただスイッチを入れて燃やすだけでは無く、裏には様々な苦労や努力が存在する。これから火葬に参加する時は、少し違った印象というか火葬する人たちに対して感謝しなければならないのでは無いか。そんなことを思わせてくれる内容です。

 「火葬場はインフラ」という認識を持って欲しいと著者は訴えています。誰かやってくれる人がいなければ、国民がみんな土葬という現実は難しいだろう。そして「火葬場で人を焼いている」という事実が、自分の子供にちゃんと伝えられるのか。いじめられる原因になるのでは無いかと危惧していました。

 大人であれば理解出来るだろうが、お前の父ちゃんは人を焼いている。そんなイジメの原因になりかねないのは確かです。しかし、誰かがやらなければならない。

 友人に火葬場の管理運営を委託されている会社の社長がいる。笑 とても私は尊敬している経営者ではあるが、ますます尊敬してしまいました。しばらく飲んでいないので、そんな裏話を聞きながら、楽しいお酒を飲みたいのでそのうちよろしくです。笑

 本書で初めて知ったことがある。「全部拾骨」と「部分拾骨」。焼いて残った骨は全部、骨壷に入れるのが当たり前と思っていたが、私は関西で行われる火葬には参加した時が無い。あちらの方は「部分収骨」といって拾骨される骨は少しで、骨壷は小さいものは「湯呑」程度の大きさだという。

 そんな大きさの骨壷だったら、お墓もコンパクトでイイのかも知れない。そんな雑知識も知れてとても有意義な本書でありました。

12 th in November / 298 th in 2023