借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました / 菊地誠壱


 アワビで生計を立てていた両親。シケで大打撃を受ける。海でやるから失敗したので、丘でアワビをやろうとする。そんな設備投資から始まる、両親の落ちぶれる様子。落ちぶれると書きましたが、著者の両親は、商売人として挑戦的な行動は、保守的な私から見れば十分尊敬できるレベルです(笑)。

 アワビがダメになったら、自宅を民宿に改装して民宿を始める、週末に団体客を引っ張り、民宿の脇にスナックまで併設し親族をママに抜擢する。両親の素晴らしい行動力です。しかし、行き詰まって借金まみれになる。

 本書の題名には「借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました」とありますが、借金まみれの両親と、「マグロ漁船」に乗る著者との借金に関する関係性ははっきり言って希薄です。しかし、高校を1年生で退学し、マグロ漁船に乗った著者が、給料をすべて母親に渡し、感謝される様子がたくさん描かれていますが、10代だった著者に、家庭のお財布事情を感じさせないようにやっていた行動では無いかと思う。

 著者は基本的にヤンキーでした。そんな人間関係もあり様々なマグロ漁船に搭乗する。短期から長期。それに絡む、先輩や後輩。マグロ船の仕事に関する詳細がしれたことはもちろんですが、このような世界は、いつ、破綻してもおかしくない、そんな人脈で支えられている。

 どんな宴会でも、刺し身にマグロが入っていないときは無い。それを供給する立場の仕組み、それに絡む人間関係を知れることが出来ただけでも、有意義な本書でありました。

10 th in January / 10 th in 2024