悪の境界線: 犯罪ボーダレス社会の歩き方 / 丸山佑介


 暴力団と一般社会の断絶を狙って施行された「暴力団排除条例」。しかし、その線引きはわかりにくく曖昧。島田紳助の引退劇でとても注目されましたが、「自分はセーフだと思っていた」紳助に対して、吉本がクダだした判断は「アウト」

 紳助の引退騒動を見ても私も含めた世間は「自分にはヤクザなんて無縁」と多くの人が思っただろう。しかし、実は一般市民にも大きな影響を与えるものだという。

 「暴力団排除条例」は、取り締まりの対象は、ヤクザのみを対象としてきたこれまでの暴対法(暴力団対策法)とは決定的に異なる。どの程度が密接交際であるのかが判然としない。日常的な付き合いなのか、仕事上の取引先まで含まれるのか。ゴルフに一緒に行くのもダメなのか、食事をともにすることはどうなのか。

 明確な線引きがないにもかかわらず、都道府県警や公安委員会が密接な関係にあるとする一般市民を「密接交際者」と認定することだけがひとり歩きしはじめて、混乱が起きているという。

 密接交際者と認定された者は、会社名や個人名を県警のホームページなどで公表され、公共事業の入札停止などの処分が下る。一度でも公表されてしまえば、社会的には、密接交際者=ヤクザとほぼ同義として扱われてしまう。

 私も公共事業を受注するものとして、こんな事態になったら事業の存続すら危ぶまれることになる。

 本書にこんなことが書いてあった。

 産経新聞のインタビューで危機感を表明したのは、誰あろう六代目山口組組長・司忍(本名・篠田建市)だ。日本最大の広域指定暴力団を率いるカリスマには、排除条例の理不尽さは目に余るようで次のように答えている。「不良外国人たちは今、日本のやくざが行き過ぎだと思える法令、条例が施行されて以降われわれが自粛している間に、東京の池袋や新宿、渋谷、あるいは名古屋、大阪などのたくさんの中核都市に組織拠点をつくり、麻薬、強盗などあらゆる犯罪を行っている。これが今後、民族マフィアと化していったら本当に怖くなるだろう。こちらもおこがましいが、それらの歯止めになっているのが山口組だと自負している」しかし、厳しい取り締まりになればなるほど裏に潜っていき、進化していく方法を知っている。今後一層襟を正すために勉強し、山口組は進化していく。

 むかしは暴力団のビジネスは単純なものだった。しかし「暴力団排除条例」により多様化し、どんどん地下に潜っていき、より複雑なものになって行く。そしてその入口は、多様化していく一方で、自分もいつか迷う込む可能性すらあるのではないか。

 様々な場所で、「暴力団には関係ありません」と「誓約書」にサインやハンコを求められる時代になりました。自分は関係ない、遠い存在と思わずに、いつ自分にも近づいてくるかもしれない。そんな危機感を与えてくれる本書でありました。

11 th in January / 11 th in 2024