藤波辰爾自伝 ROAD of the DRAGON プロレス50年、旅の途上で / 藤波辰爾


 力道山をテレビでみてからプロレスラーに憧れ、16歳で日本プロレスに入門。猪木の付き人を経て、新日本プロレスの旗揚げメンバーとなる。カールゴッチのもとで修行したエピソードが綴られています。様々なレスラーの本を読みましたが、一番ゴッチを崇拝し親密な関係にあったのが藤波だったのではないかという印象です。

 藤波を語る上で絶対外せない「長州力」について、詳しく記述されています。古舘伊知郎が命名した「名勝負数え唄」を繰り広げた藤波辰爾と長州力。有名な「かませ犬事件」。藤波は事前に知らなかったというが、様々な本ではマッチメイクする上での仕掛けだと書いてある。藤波は本当に知らなかったんだろうか(笑)。

 帯には「少年時代のプロレス原風景からアントニオ猪木への憧憬、ドラゴンブーム、飛竜革命。そして、次世代へ語り継ぐプロレス論」と書かれています。巻末に「藤波辰爾年表1953-201」というモノが書いてありますが、これがとても良くできています。藤波辰爾の人生をたどることによって、よりプロレスの歴史を復習することが出来ました。

「城が好き過ぎる」エピソードを紹介していた。

 あまりにも城が好きすぎて、いつか自分で城を持つのが夢で、実際、1度、知り合いの工務店に城の建築費用の見積もりを出してもらったことがある。想定した規模は、中学生の時に憧れた大阪城で、戻って来た見積書を見て仰天した。

  総工費は120億円、かかる人件費は10万人分、さらに納期は今世紀中となっていた。いくら好きだからといって、こんな見積もりを頼んだこと自体に、さすがの妻も呆れ果てていた(笑)。この話には続きがあって、見積もりを頼んだ時、工務店が工費の割引キャンペーン期間で「藤波さん、今なら20億円値引きしますよ!」と言ってきた。

 建設会社で働くものとして、120億円の金額を算出するための、人的コストがいくら掛かったのだろうと、とても見積した人が気の毒に思えました(笑)。
 前田日明との関係性もとても興味深い。前田の理想のスタイルは、過去に新日本の原点にあったスタイルで、そんな前田と対戦するときの対応やどうすれば融合して、観客を喜ばせることが出来るのか。そんな葛藤も綴られています。

 そして長州との関係性で一番印象的だったのは、長州のマイクパフォーマンスについて「天才的」と称し絶賛しています。それに比べて自分は口下手でマイクを渡されると困惑するという。スーパー・ストロング・マシンに叫んだマイクアピールはプロレス史に残る名言となっている「お前、平田だろ!」事件について触れていました。言ってしまった状況や後悔。その後マスコミや社内から受ける仕打ちなど。

 本書に書いていることではありませんが、後年、素顔となった平田淳嗣はこの騒動に対し、「あの真面目な藤波さんがリング上でパンツ下げてケツ出すような衝撃でしたよ。そのくらい俺にはショックでした。」と雑誌のインタビューで振り返っているという。

 こんな少しおっちょこちょいなところが「噛ませ犬事件」という仕掛けを、事前に知らせて貰えなかったのではないだろうか。そんなことを思う(笑)。

 アントニオ猪木関連の本は何冊も読んでいますが、様々な人が語るアントニオ猪木という男、そしてジャイアント馬場という相反する二大巨頭は、後世に語られる偉人であることを再認識させてくれる本書でありました。プロレス本は本当にオモシロイ!!!(笑)

05 th in January / 05 th in 2024