人はなぜ働かなくてもいいのか/池田清彦

 著者の本は『SDGsの大嘘』『平等バカ』『本当のことは言ってはいけない』『多様性バカ』に続き5冊目のアウトプットです。「ホンマでっか!? TV」でもおなじみの“生物学の専門家”の著者。なにより顔がよく分かるしテレビでもよく見るせいもあり、アタマにスラスラ入って来る印象です。

 生物学者の視点から「働くのが当たり前」という常識を解体しています。人間は農耕以前の狩猟採集社会では、生き延びるために必要な範囲で活動し「労働」と「余暇」の区別すらなく、働きすぎはむしろ集団の存続を脅かすものだった。

 農耕や貨幣経済、特に明治期の地租改正による通貨納税の導入以降、「お金を稼ぐために働く」ことが義務化し、「働かざる者食うべからず」という倫理が内面化された。

 資本主義は本質的に「正当化されたピンハネ」の仕組み。資本家が労働者の生み出す価値の一部を利潤として抜き取り、資産を持つ者と持たざる者の格差は構造的に拡大する。

 働いても賃金が上がらないのは個人の努力不足ではなく、この仕組みの必然。少子化は先進国で価値観の成熟に伴う自然な流れであり、「少子化危機」は人口増を前提とした資本主義の理屈にすぎない。

 AIやロボットの進歩は労働を代替し、失業を増やして購買力を奪うため、資本主義自体が破綻の危機に瀕する。これを防ぐにはベーシックインカムが合理的で、財源はMMT(現代貨幣理論)により、自国通貨建ての国債発行で賄える。

 国債をいくら発行しても財政破綻しないのは、通貨発行権を持つ国家の本質だから。BIは弱者救済だけでなく、資本主義維持のための制度でもある。

 お金のために義務的に働くことから解放されれば、自発的な活動が可能になり、人生がより面白くなると著者は説いています。働かなくてもいいのは怠惰の推奨ではなく、人間本来の在り方への回帰だという。

 生物学的視点で労働倫理を歴史的に相対化する点はとても新鮮です。AIが進むと、人間がやらなくてもいい仕事が増えて、失業する人がたくさん出てくる。すると、お金を稼いで物を買う人が減ってしまうので、資本主義の仕組み自体がうまく回らなくなる。

 みんなが最低限のお金を受け取れる「ベーシックインカム」を導入しないと、社会が成り立たなくなるいう本書の考え方は、本書を読んで「なるほど確かにそうなるかも」と妙に納得させてくれるそんな内容でありました。


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