闇バイトの歴史「名前のない犯罪」の系譜 / 藤原良

 本書は1989年頃から現代まで、約35年間にわたる特殊詐欺や匿名流動型犯罪の変遷を詳細に追ったノンフィクションです。

 単なる事件史という感じではなく、これらの犯罪が日本社会の雇用構造やデジタル化、経済変化と深く結びついていることを明らかにしています。

 中心となるのは「トクリュウ」と呼ばれる匿名・流動型犯罪グループ。固定の組織実体を持たず、案件ごとに末端実行者をSNSなどで集めて使い捨てる形態が特徴。末端がいくら逮捕されても指示役が姿を見せず、労働と犯罪の境界が極めて曖昧になった現代の犯罪形態。

 その源流は1989年から2008年頃。当時はオレオレ詐欺という言葉が生まれる前で、犯罪は組織か個人かという二元論で語られていた。しかし電話詐欺の組織化が進み、「サクラ」と呼ばれる末端実行者が匿名的に動員されるようになる。

 出会い系サイトや悪徳商法で人間ダミーとして使われるサクラは、犯罪組織の正式メンバーではなく「仕事」として集められた一般市民に近かったという。

 飛ばしケータイ(他人名義の携帯電話)の登場により追跡が難しくなり、詐欺のオートメーション化が進行。ネットを通じてサクラが集まる仕組みができ、暴力団の収益に半グレ勢力が割り込むなど、犯罪が「人が動かすもの」から「構造が人を動かすもの」へ転換した。

 2008年から2013年頃にかけては、取り締まり強化によりグループが海外(フィリピンやカンボジアなど)に拠点を移す。本体は安全な国外に留まり、国内の受け子や出し子といった高リスク作業を外部に委託する「リスクのアウトソーシング」が確立。これは製造業の下請け構造と似ており、国境が本体を不可触にする役割を果たした。

 2013年以降、トクリュウが本格的に誕生・進化。呼び名を持たないことで既存の暴力団対策法の網を逃れ、固定メンバーを持たず案件ごとに人員が流動的に集散する点が戦略的だった。

 コロナ禍はこれを加速させ、リモート化やSNSの普及、非接触動員のインフラが整った。トクリュウの強みは構成員の忠誠心ではなく「いつでも切り捨てられる消耗品設計」にあると著者はいう。

 「スキマ時間で簡単高収入」「コミュニケーション不要」といった文言で「生きづらさ」を抱える若者や女性、子ども、外国人留学生などを狙い、Telegramなどの暗号化アプリで連絡。

 一度入ると個人情報を人質に取られやすく、出られなくなる構造になっている。最終的に、警察や既存制度は固定組織を前提とするため対応が遅れ、末端逮捕を繰り返しても本体は無傷で次の人員を補充。

 法律が事後的であるのに対し、犯罪構造が先を行く「時差」がトクリュウ存続の理由だと結論づけています。闇バイトの本質は「闇」よりも「バイト」にあるとし、社会全体の人間部品化の設計思想を浮き彫りにし、末端実行者が「ただ案件をこなしているだけ」と認識しやすい「悪の凡庸さ」が、現代の脅威だと警告する内容でございました。

 ニュースでよく聞く「闇バイト」や「トクリュウ」など。何気なく聞き流していましたが、とても深く理解できた本書でありました。せっかくなので関連本も何冊か読んで、酒の席でネタに出来るくらい、もっと知識を高めたいと思います。(笑)

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