村上龍さんのアウトプットは「限りなく透明に近いブルー」「69 sixty_nine」「コインロッカー・ベイビーズ」「テニスボーイの憂鬱」「ユーチューバー」「イン ザ・ミソスープ 」についで本書で7冊目となります。
55歳前後の中高年が直面するリストラ・離婚・喪失・再出発を描いた5編の中編連作小説集です。私は先月に58歳になったので、世代のド真ん中なので結構スラスラとはいってくる感じはありました。(笑)
各話は独立していますが、共通して「人生の折り返し点での喪失と再構築」をテーマにし、主人公たちが心を落ち着かせるための飲み物(アールグレイ、ミネラルウォーター、コーヒー、プーアール茶、日本茶など)がモチーフとして登場。村上龍らしい心理描写のリアリティーと、希望の余韻を残す作風で、私も含めた同年代のシニア世代は共感得れる作品だと思います。
1. 「結婚相談所」
54歳で定年退職した夫の愚痴や生活に耐えられなくなり離婚した中米志津子(58歳頃)は、派遣の試食販売などで自立しながら経済的不安を抱え、結婚相談所に登録。見合いを14回繰り返しますが、理想の相手(元夫とは違うタイプ)にはなかなか出会えない。相談員の励ましや元夫からの連絡、優良会員限定パーティーでの出来事などを経て、彼女は「人生はやり直せるが、単純に元に戻るわけではない」「後悔と共に生きるのが最も恐ろしい」と気づく。最終的に、婚活を通じて得た経験が彼女に新たな生き方への希望を与えます。
2. 「空を飛ぶ夢をもう一度」
出版社をリストラされた因藤茂雄は、再就職が思うようにいかず道路工事の交通誘導員などのアルバイトをしながら、ホームレス転落への強い不安を抱えます。ある日現場で、中学時代の同級生・福田と再会。福田は実は重病を抱えたホームレスで、因藤は当初関わりを避けようとしますが、福田の身元引受の依頼を受け、死期が近い彼を連れて母親に会わせるための長距離バス旅行に出ます。道中での福田の過去や苦しみ、因藤自身の脆弱な生活基盤への気づきが描かれ、胸が熱くなる感動的な結末を迎えます。因藤は「仕事・家族・健康・住居を守れ」とノートに記すほど現実を痛感します。
3. 「キャンピングカー」
中堅家具メーカーの営業マン・富裕太郎は、早期退職に応じ退職金でキャンピングカーを買い、妻と日本全国を旅する夢を抱きます。しかし妻や家族に強く反対され計画は挫折。再就職活動を始めますが、58歳の元営業職という現実の厳しさに直面し、プライドがズタズタになります。かつての取引先社長に頭を下げても断られ、人材紹介会社での「自分史」提出などの過程で中高年の再就職の難しさを実感。最終的に内向きになっていた彼が、自分の価値観を見直し新たな道を見つけ、再出発を果たすハッピーエンドです。
4. 「ペットロス」
子供が独立した高巻淑子は、定年退職して部屋にこもりがちな夫との会話が少なく、柴犬のボビーと上質なプーアール茶が生きがいです。散歩を通じて知り合った愛犬家仲間(特に義田さん)との交流で心が満たされますが、ボビーが心臓病で余命わずかと診断されます。淑子は夫と対立しながらもボビーを家に上げ、寝食を惜しまず看病。ボビーの死後、ペットロスに陥ります。しかし、夫が実はブログで妻の心情を気遣っていたことがわかり、長年連れ添った夫婦の絆が再確認されます。夫の優しい言葉に支えられ、淑子は少しずつ立ち直り、新たなペットを考えるところで希望を見出します。涙なしでは読めない感動編です。
5. 「トラベルヘルパー」
長距離トラック運転手の下総源一は、リストラや不定期アルバイトを続けながら独り身のアパート生活を送っています。古書店で出会った女性・彩子に一目惚れし、自分を着飾って教養ある男を装いデートを重ねますが、突然別れを告げられます。老いらくの恋や孤独、トラベルヘルパー(旅の介護人)的な要素も絡み、彼の「どうしようもない孤独感」と向き合う物語です。
全体を通じて著者は、中高年の「喪失」(仕事、家族、健康、ペット、夢など)をリアルに描きつつ、「生きてさえいれば」「瞬間瞬間を大切に」「再出発は可能」と静かな肯定で締めくくります。
50代以降や定年を控えた人に特におすすめの一冊です。これから訪れるであろう「喪失」について、「他人事ではない」と感じさせてくれる内容でありました。ドラマ化もされているようなので、機会があったら見てみようと思います。
6月3冊目_2026年83冊目