みずいらず/染井為人

 染井為人さん、「悪い夏」「正義の申し子」「引きこもり家族」「震える天秤」「滅茶苦茶」「硝子のマンション」に続き、本書で7冊目のアウトプット。著者の作品の特徴は、とんでもない事態になったり、沼にどんどんハマる感じとか、スリル満点みたいな内容が多いですが、本書は、ほっこりウルウル系の連作短編集となっています。

 子連れ再婚家庭、不妊治療中の夫婦、新婚のすれ違い、中高年の仮面夫婦、熟年離婚危機など、現代のリアルな夫婦問題を軸に、各話で視点が変わりつつ登場人物がゆるやかにつながっていく構成になっています。

 最初は苛立ちや不満、冷めた感情が強く描かれ、「あぁ、やっぱ無理」と思わせるようなすれ違いが強調されますが、各話の終盤で相手の本心や長年の積み重ねが明らかになり、心温まる余韻を与えてくれます。

 離婚歴のある女と初婚の男と再婚し、次男が生まれた後、長男(前夫の子)への夫の冷たさに苛立っていく。担任からADHDの可能性を指摘されても夫は他人事のように見え、女の被害妄想が膨らむ夫婦喧嘩の日々。しかし通知表の一言で状況がひっくり返り、夫の真意が明らかに。 

 以降の話では、不妊治療で自信を失う夫、浮気を繰り返すイケオジ夫に離婚を切り出す妻、定年夫の存在にイライラする妻、明るすぎる新妻に疲れる夫、家事をしない妻への夫の疑念、更年期妻への不満、夫の終活に付き合う妻の記憶などが描かれています。

 最終話「シングル」では独身作家、ほとんど著者本人と思われる視点での夫婦像が締めくくられています。 

 外見上は「普通の幸せな家庭」に見えても、内側に潜む不満や誤解がリアルにえぐり出されますが、最後には深い絆や理解が浮かび上がる、そんな魅力はこの短編集にはある感じです。

 著者らしい社会派の視点を持ちつつ、ミステリ要素は薄めというか、ほとんどなくハートフル寄りの新境地と言える一冊です。

 私も一応(笑)、妻と寄り添って35年になりますが、あらためて「夫婦とは何か」をじんわり考えさせられる、そんな一冊でありました。

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