「その日暮らし」の人類学/小川さやか

 文化人類学者である著者がタンザニアの零細商人を対象に長年のフィールドワークを行い、自らも行商人として生活しながら明らかにした「Living for Today(その日暮らし)」という生き方と経済を描いた内容になっています。

 私たち日本人は往々にして「未来のために現在を犠牲にする」生き方を当然視する。計画を立て、無駄を省き、成果を追い求め、貯蓄やキャリアを積み上げる。

 しかし著者は、タンザニアの都市部で出会った人々が「3日先のことは分からない。前へ前へ」と語り、貯蓄や長期計画をほとんど持たず、その日その日を生きる様子に強い衝撃を受けた。

 一見すると無計画で刹那的に見えるこの暮らしは、不確実な環境下で生き延びるための高度な知恵と社会関係に支えられている。

 具体的には、一つの仕事に固執せず、儲かるとわかれば皆で殺到し、ダメならすぐ転戦する「試しにやってみる」態度が特徴。

 仕事は「仕事は仕事」と割り切り、行商から荷降ろし、客引き、大工などへ柔軟に移る。失敗しても誰かの稼ぎで食いつなぎ、気前のよい贈与や「借り」のネットワークがセーフティネットとして機能する。

 信頼を前提とせず、経験に基づく「ずる賢い知恵や悪がしこい計略」で状況に即応する。コピー商品や偽物の流通も、貧困層が最新技術にアクセスし、草の根のイノベーションを生む原動力として肯定的に捉えられる。

 こうしたインフォーマル経済は、世界で16億人に雇用を提供し、規模は18兆ドルに及ぶ巨大な「もう一つの資本主義」であるという。

 上からのグローバル化に対し、下からのグローバル化として、公式経済の論理を巧みに利用しながら独自のシステムを形成している。

 アマゾンの先住民や過去の焼畑農耕民の事例も交え、時間に縛られない暮らしの普遍性と可能性を示す。

 本書は、成果主義や計画信仰を相対化し、働き方・人間関係・時間の価値・豊かさの定義を問い直す。不確実な時代を「面白がる」しなやかさと、多様な生き方の共存を促す刺激的な一冊でございました。

 同じ会社で何十年も働き続ける自分の生き方を改めて考えた。計画を立て、将来のために今を積み重ねるのは日本では当たり前だが、タンザニアの人々の「その日暮らし」は不確実性を恐れず、状況に合わせて柔軟に動くしなやかさを教えてくれた。

 失敗しても転戦し、人間関係で支え合う姿は、単一のキャリアに固執する自分の価値観を十分揺さぶってくれる内容です。

 豊かさや幸福は効率や安定だけではない。もう少し今を味わい、変化を面白がる余裕を持てる自分でありたいものですね。(笑)

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