年度末の3月31日、都心の総合メーカー「万屋カンザキ」本社ビル。就職氷河期世代で、最終面接まで残った憧れのこの会社に入れず、契約社員の清掃員として早朝から黙々と働く守田守は、異動や退職で大量に出たゴミを片付けている。
そこへ、今日定年を迎える労働安全衛生管理部長・佐和山義男が現れ、突然朝食に誘われる。バブル期入社の剛腕営業マンで親分肌と慕われた佐和山は、5年前に出世レースから外れ窓際(部下なしの閑職)に追いやられ、屋上で自死を図ろうとしたところを、守田が図らずも阻止した「命の恩人」だったという。
物語は佐和山本人の視点ではなく、守田をはじめ、同期で女性初の取締役になった本橋、彼女の私生活を支え出世街道を外れた夫・石野、かつての部下たち、因縁のライバルや今どきの社員など、立場も世代も異なる人々の視点で進みます。
各章で過去が振り返られ、5年前の「パワハラ事件」の真相が少しずつ浮かび上がる。実は佐和山はパワハラ加害者ではなく、部下のクラブでのツケをやむを得ず自分の名義で接待交際費として処理してかばった結果、罠に嵌められ失脚させられた冤罪だった。
佐和山自身は閑職の5年間を前向きに過ごし、定年後の清掃会社起業を準備して過去を手放していたが、周囲の同期や部下たちは最後の日に真実を暴き、汚名を晴らそうと奔走する。悪役側も追い詰められ、勧善懲悪的な決着を迎える。
守田は佐和山の新会社に正社員として迎えられ、二人の人生が交差したこの一日をきっかけに、理不尽の中でも真っすぐに生きる勇気と誇りを取り戻していく。
会社という組織の中で見えない縁が結ばれ、失ったものを数えるのではなく、今あるものに目を向け未来へ進む姿が描かれる群像劇といった感じの作品でございました。
年度末という勤め人の「大晦日」に焦点を当て、清掃員と窓際部長という立場の異なる二人が交差する設定がとても新鮮で、読みやすい群像劇としてまとまっている印象です。
組織の理不尽や世代間の温度差を丁寧に描きつつ、勧善懲悪のカタルシスもあり、読後に前向きな気持ちになれます。佐和山の「失ったものを数え始めれば、思い出すのは恨みばかり」という言葉がとても印象的で、迷える背中を優しく押してくれる一冊です。
私の会社は小さな会社なので「出世レース」などは存在しませんが、出世を目指す会社勤めの人にはとても響く、勇気と誇りをもらえる物語でしょう。
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