火車 / 宮部みゆき

 具体的には忘れましたが、なにか「絶対読んだほうがいいミステリー」的なサイトで本書が紹介されていたので、読んでみました。

 休職中の刑事・本間俊介は、勤務中に負った膝の傷で休職生活を送っていた。亡き妻の遠縁にあたる銀行員・栗坂和也が突然訪れ、婚約者の関根彰子を捜してほしいと頼む。

 和也は結婚準備中に彰子にクレジットカードを作らせようとしたところ、彼女が過去に自己破産していた事実が発覚。問い詰めた翌日、彰子は勤め先も住まいからも忽然と姿を消し、痕跡を徹底的に消してしまったという。

 警察手帳を使えない本間は、親戚や雑誌記者を装い独自に調査を開始。彰子の勤め先で得た履歴書を調べると、記載された職歴の会社は実在しない。自己破産手続きを担当した弁護士を訪ねると、弁護士の知る「関根彰子」は水商売経験のある女性で、和也の婚約者の写真とは別人だと判明する。

 和也が婚約した女性は、本物の関根彰子の身分を騙っていた偽者だった。本間は本物の彰子の足跡を追い、宇都宮など各地を調査します。

 その過程で、クレジットカードの安易な利用から多重債務に陥り、自己破産して社会から疎外される人々の悲惨な実態が次々と明らかになります。

 都会での一人暮らしの夢、無理な住宅ローン、実家の借金による一家離散。普通の幸福を求めた人々が「火の車」のような借金地獄に引きずり込まれていく様子が克明に描かています。

 日本の戸籍制度の隙間を突いた身分詐称のトリックと、バブル崩壊直後のカード社会の闇が絡み合い、本間は偽者の正体と動機を執拗に追い続ける。そんな内容でしょうか。

 山本周五郎賞を受賞した本作は、ミステリーを超えて、1990年代初頭の日本社会が抱えた債務問題と人間の脆さを鋭く突いた社会派作品であると、レビューにも書かれておりました。

 本書はミステリーの枠を超え、カード社会が生む悲劇を真正面から描かれています。本間の地道な調査を通じて浮かび上がる「多重債務者たちの人生」がリアルで胸に刺さり、転げ落ちるとはこんなことなのだと、借金の怖さを痛感させられます。

 身分を奪う行為の背景にある「普通の幸せへの執着」。贅沢がしたいわけではない。ただ人並みになりたいだけなのに。そんな希望が不幸への道になっていく。読後も少し引きずりそうな、そんな本書でありました。

9月1冊目_2026年156冊目