ひと / 小野寺史宣

 先日読んだタクジョシリーズの著者。「タクジョ!」「タクジョ!みんなのみち」「タクジョ!あしたのみち」に続き、本書で4冊目のアウトプットになります。本書もそうでしたが、温かく人間味あふれる作風が著者の特徴のようです。

 柏木聖輔は鳥取県出身の20歳。高校2年のとき、料理人だった父・義人が運転中に猫を避けて事故死。その3年後の大学2年の秋、母・竹代が突然死。

 母は女手一つで聖輔を東京の法政大学に進学させてくれていたが、急死により聖輔は天涯孤独となります。全財産は約150万円。奨学金返済の見通しが立たず、大学を中退。

 仕事を探さなければと思いつつ動き出せない日々が続く中、ある日空腹に負けて砂町銀座商店街の惣菜屋「おかずの田野倉」へ立ち寄ります。財布には55円しかなく、最後に残った50円のコロッケを買おうとしたところ、見知らぬおばあさんに譲ります。

 店主の田野倉督次はそれを見て、120円のメンチカツを50円にまけて売り、さらにハムカツをサービス。この縁で聖輔は翌日履歴書を持って店を訪れ、アルバイトとして働き始めます。

 店では督次とその妻・詩子、同僚の稲見映樹、シングルマザーの芦沢一美らと穏やかに働きながら、日常を取り戻していく。

 ある日、客として訪れた高校時代のクラスメイト・井崎青葉と再会。青葉も鳥取出身で、東京の大学で看護師を目指して健康福祉学部に通っていた。その後もときどき会うようになります。同じ鳥取出身の安心感や価値観の近さから、二人は自然と親しくなっていく。

 青葉とはLINEで連絡を取り合い、あらかわ遊園や銀座を一緒に歩くなど、ささやかな時間を過ごし、青葉への想いをよせて行きます。

 店では映樹が彼女と結婚することになり、身近で「生」の喜ばしい出来事に触れ、映樹に店を継いでほしいという思いから、店を辞めることを決意します。

 仕事を終えた聖輔は青葉に電話をかけ、今から会おうと誘います。青葉の家の最寄り駅で落ち合い、会うなり「◯◯◯◯◯◯◯◯」とストレートに告げ、そこで物語は終わります。

 日常の温かさと、人の優しさが丁寧に描かれていて、読後感がとても良い。(笑) 特に最後の一言が印象的で、譲れないものを見つけた主人公の成長に心が温かくなります。人の温かさに救われるというか、「人っていいな!」とそんなことを感じさせる作品でございました。

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