老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 / 野澤千絵


 現在の日本は人口減少社会なのに「住宅過剰社会」という不思議な現象が起きている。減り続ける人口に対して、空き家は増え続ける一方。都市部では現在も新しい超高層マンションが乱立していく。15年後には3戸に1戸が空き家になってしまうという。

 地方部の空き家はもちろん問題ではあるが所有者が一人なのでまだいい。しかし都会の古い高層分譲マンションの深刻度は高い。売りたくても売れない。管理費が集めらなっていく。そして所有者は複数おり、マンションそのものの維持ができなくなって行く。そのためどんどん荒廃していき、維持できないどころかスラム化していく。

 過去の日本で人口増のフェーズでは、増える一方の人口に対応するためどんどん郊外に住宅を建てれるというような、建設業界のプレッシャーに負けて農地を開放するほか、その他さまざまな規制緩和をして中心から郊外に人を移動させた。

 しかし現在の人口減少フェーズになったら「コンパクトシティ」とか唱え、街の中心地に人を集めようと方向転換している自治体が多い。車社会なので郊外に市街地を移したが、車に乗れない老齢者が多くなったので、公共交通機関で対応できる市街の中心に、人を集めようとしている。しかし単純にそううまく行くはずはない。

 親の残した地方の家屋は迷惑なだけなので、相続放棄する人が多くなっているという。私も建設関係なのでこんな引合を受けたときがある。「お墓もこっち(関東)に持って来たので、家と土地を処分したいがどうしたらよいだろうか」なんなら、もらって欲しいという口ぶりであった。笑

 お墓参りのために帰省するような文化すらもう薄れてきている。東京で生まれ東京で死んでいく人たちが多くなってきた現在では、当たり前ともいってもいい減少だろう。

 私の様に地方に住み、地方で人生を全うしようとすると、必然的に負担が多くなっていくのは容易に予想出来る。実際辛くなっていることを痛感しています。笑 どんな自治体もUターンやIターン。関係人口を増やそう。そんなビジョンを自治体が掲げるが、それは単なる少ないパイの奪い合いをしているだけで、移住のインセンティブなど過剰にすればするほど、自分のクビを締めていると言っても過言では無い。

 私は現在借家に住んでいて、自分の持ち家を持つ気は無い。変わっていると言われるときがあるが、本書を読んで確信出来たことはある。やっぱり家は要らない。笑 ただで良いので使ってほしい。そんな家はあと20年もしたら腐るくらいそのへんにあることでしょう。そんなことを考えさせてくれる本書でありました。

 いつかは自分の家が欲しいという人は多い。30年のローンを組む人も多い。30年後のローンを払い終わることをイメージしている人は多いかもしれないが、30年住み続けるには、どれくらいコストが掛かるのか。40年後、50年後はどうなるのか。そんなことを提言してくれる内容でありました。

 これから家を欲しいと思っている人。マイホームを購入しローンを支払い続けている人。そんな人には、夢を描くのは良いかもしれませんが、現実を知るためにも是非読んで欲しい本書です。

4月11冊目_2024年86冊目