元彼の遺言状 / 新川帆立

 初めて読んだ作家さんなので、WIKI程度だけでも。そう思い調べてみました。

 16歳の時に読んだ夏目漱石の『吾輩は猫である』に感銘を受けて作家を志す。しかし長期戦となることを覚悟し、まずは収入に困らない国家資格を取得して専門職に就くことを目指す。医師を目指して東京大学の前期試験で理科三類を受験するも不合格。後期試験に合格し文科一類に入学、弁護士を目指して法学部に進学。

 卒業後は東京大学法科大学院に進学。修了した年に24歳で司法試験に合格。司法修習中には最高位戦日本プロ麻雀協会プロテストに首席で合格し、1年間だけプロ雀士として活動。

 2017年1月に弁護士登録し、大手法律事務所に入所。残業が月150 – 160時間の生活が続き、小説を書く時間も捻出できない中、体調を崩して倒れたことをきっかけに弁護士事務所を退所。企業内弁護士となり、小説を執筆する。勤務先では、契約書作成、契約交渉、紛争解決、コンプライアンスなど、企業が直面する法的問題全般を幅広く担当。

 27歳の時に山村正夫記念小説講座の受講を開始。元編集者に添削してもらい、創作仲間と切磋琢磨する。2020年、『元彼の遺言状』で第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞。2021年より弁護士を休職し、作家業に専念する。

 小説家ってすごい人が多いけど、本書の作者もなかなかの経歴です。こんな経歴だからこそ、本書のようなものを創作できるかも知れませんね。(笑)

 主人公の剣持麗子は、28歳の敏腕弁護士。お金に非常に貪欲で、勝ち気で頭脳明晰、手段を選ばない性格の女性。所属事務所でボーナスカットに憤慨し辞めようとした矢先、大学時代に3ヶ月だけ付き合っていた元彼・森川栄治(大手製薬会社・森川製薬の御曹司)が亡くなったという連絡を受けます。 

 栄治は奇妙な遺言状を残していた。「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る。該当者がいなければ国庫に寄贈する」。遺産は数百億円規模(株など含め巨額)とされ、死因は公式にはインフルエンザとされていた。

 栄治の友人(大学時代の先輩)である篠田が麗子に相談に来ます。篠田は自分が栄治にインフルエンザをうつした可能性があるとして、「自分が犯人として遺産を相続できないか」と依頼。麗子は当初乗り気ではなかったものの、成功報酬の見込みが膨大(150億規模)と知り、積極的に動きます。森川家主催の「犯人選考会」(社長・金治、副社長・平井、専務・定之の3人が審査)が開かれ、麗子は篠田を犯人として認めさせるために奔走します。

 一方、遺言にはもう一つの項目があり、元カノたちに軽井沢の屋敷などを遺贈するという内容も。麗子自身も元カノリストに載っており、看護師の原口朝陽、拓未の妻雪乃らと手続きのため集まります。しかし、遺言書を保管していた顧問弁護士・村山の事務所が荒らされ、金庫が盗まれ、村山本人が毒殺される事件が発生します。 

 調査を進める中で、栄治の死に注射痕があり、インフルエンザではなく自社新薬の副作用死の可能性が浮上。雪乃がそれを隠蔽していたことなどが明らかになりますが、拓未のアリバイもあり容疑は錯綜。篠田は殺人だったと知り依頼を取り下げ、麗子の大儲け計画は一旦崩れます。

 盗まれた金庫を叔父・銀治が懸賞金をかけて探す中、麗子が関与して回収。金庫の中には遺言書のほか、2通の親子鑑定書が入っていた。一つは銀治と平井副社長が親子であること、もう一つは栄治に血を引く子供がいたことを示すものだった。

 真相は、犯人は栄治の子供の育ての父親。栄治が死の直前、自分の息子を相続人として遺言を書き換えようとしたのを知り、書き換えられる前に栄治を殺害した。お金より我が子との関係を守りたかったのが動機。 

 最終的に遺産は半分が国庫寄贈、残り半分が栄治の血を引く子供が受け取り、麗子の手元には一円も入らない。しかし麗子は真実に気づく。この遺言状騒動自体が、死期を悟った栄治とある人物の結託による計画だった。会社が反社会的勢力絡みのミスで危機に陥っていたため、遺産の半分を国庫に寄贈して会社を守るのが目的だった。 

 麗子はその人物(おそらく森川家関連のキーパーソン)を顧問弁護士として雇う提案をし、採用されます。将来的に大会社の顧問として出世の道が開けます。また、銀治は昔愛した人(平井の母)と再会し、旅立つなど、登場人物たちの決着も描かれます。 
 全体として、金銭至上主義の麗子が事件を通じて少し人間味を見せ、仕事そのものや他者への関わり方に変化の兆しを見せる成長譚でもあり、法律知識を活かした展開と二転三転するプロットが魅力の遺産相続ミステリーです。

 著者自身が弁護士だったということもあり、依頼主や相手のやり取りなど、とても詳細に綴られています。第19回『このミステリーがすごい!』大賞の作品ということもあり、とても読み応えのある作品でございました。著者の違う作品もなにか読んでみようと思います。