三千円の使いかた / 原田ひ香

 本書は、御厨家(みくりやけ)の女性たち(祖母・琴子、母・智子、長女・真帆、次女・美帆)を中心とした連作短編形式の家族小説。祖母・琴子の言葉「人は三千円の使いかたで、人生が決まるよ」を軸に、各世代の女性たちが人生の節目(就職・結婚・子育て・老後・病気・離婚など)で直面するお金の悩みや使い方、貯め方を描きながら、前向きに生きる姿が語られています。節約術やお金の知識も自然に織り交ぜられた「節約家族小説」といった感じでしょうか。

■第1章「三千円の使いかた」

 就職して憧れの中目黒近辺で一人暮らしを始めた次女・美帆(20代・貯金約30万円)。おしゃれなデパ地下のお惣菜やカフェコーヒーなど、ちょっと贅沢な日常を送り、商社勤めの彼氏・大樹との関係も順調に見えていた。しかし、職場で慕っていた先輩の突然の退職や、大樹のドライな反応で価値観のずれを感じ、クリスマスプレゼントの格差で別れの予感。 

 そんな中、保護犬のボランティアイベントで黒いチワワに心惹かれ、「保護犬と一緒に暮らせる一軒家を買う」という夢を抱きます。。ペット可の物件の家賃の高さや里親条件を知り、現実的に中古一軒家を目標に節約を決意。姉・真帆に相談し、固定費削減などのアドバイスをもらい、実家に戻る選択も視野に入れる。お金の使い方を見直すきっかけとなります。

■第2章「七十三歳のハローワーク」

 節約上手で1000万円を貯めた琴子(祖母、70代)。夫の死後、年金減額で貯金を取り崩しつつ生活。友人との外出が増え出費もかさむ中、将来の介護や遺産を心配する。義理の娘・智子に誘われ、おせち料理教室の講師を手伝い、初めての「謝礼」5000円を受け取り、働く喜びと感謝される充実感に目覚めます。ハローワークで仕事を探すが年齢の壁にぶつかりつつ、最終的にアパレルショップで働き始めます。いきいきとした姿に家族も安心する様子が描かれています。 

■第3章「目指せ!貯金一千万!」

 真帆(30代)長女・真帆(30代・元証券会社勤務、結婚後専業主婦、貯金600万円)。消防士の夫・太陽と娘・佐帆との生活は幸せだが、裕福な友人の婚約(ティファニー指輪・新居提供など)を見て羨望と比較に苛まれます。周囲が「低収入の夫を選んで仕事を辞めた」と驚いていたことを知り、ショックを受けます。新婚旅行の夢(ハワイ行きを諦め格安沖縄)や日常の過度な節約(スーパーの暗算、子供にお菓子を我慢させる)で、自分や家族の人生を本当に楽しめているか疑問を抱いて行きます。 

 祖母・琴子に相談し、長期計画の大切さを学び、夫婦で本音を話し合います。友人のセレブ婚破談などを経て、「隣の芝生は青く見える」ことに気づき、家族の幸せを再確認します。

■第4章「費用対効果」

 琴子の友人・小森安生(定職につかず短期バイトで世界旅行を繰り返す自由人)。恋人はいるが、浮気相手の妊娠騒動(実は偽り)で関係が揺らぎます。「結婚・子育てに費用対効果はない」と言い訳する安生を、琴子が愛情たっぷりに叱責。「費用対効果なんてないのが人生」と諭します。美帆の助けも借りてきなりへの謝罪を続け、関係修復の兆しを見せ、家族以外の視点で「お金の価値観」が描かれています。 

■第5章「熟年離婚の経済学」

 向上心が高く習い事熱心な母・智子(50代・貯金100万円弱)。健康診断で子宮がん(ステージ1)と診断され、不安になるが、夫・和彦の無関心な態度(家事ゼロ、コミュニケーション薄い)に不満が爆発。親友の熟年離婚話を聞き、自分も離婚を検討。へそくりを始め、離婚後の生活設計を考えます。家族の介入や和彦の不器用な努力を経て、関係を見直す方向へ向かいます。 

■第6章「節約家の人々」

 1章から5章をまとめた感じの総括といった感じです。美帆の視点など、これまでの登場人物がつながり、家族の絆やお金の使い方の多様性が描かれています。美帆の新恋人(奨学金返済を抱える人物)などのエピソードなど、全体として、ただ我慢する節約ではなく、将来の夢や生きがい、家族のためにお金をどう「使う・貯める・計画する」かがテーマとなっています。祖母の教えが各世代に響き、人生のピンチを前向きに乗り越えていきます。 
 各章は独立している感じですが、家族のつながりでリンクし、20〜70代のリアルな悩み(突然の病気・老後資金・キャリア中断・子育て費用など)は、どんな世代の人が読んでも自分に置き換えて考えることが出来る感じがあります。

 本書はお金に関する実用的な知識(家計簿の使い方・固定費削減・年金など)とてもわかりやす学べる感じです。お金のナンチャラとか、そんな本は苦手でもお金の知識は知りたい。そして小説は好き。そんな人に大変おすすめしたい、そんな一冊でありました。