小川糸さん、「ツバキ文具店」から始まり「キラキラ共和国」「椿ノ恋文」「小鳥とリムジン」「針と糸」に続く、6冊目のアウトプットになります。本書は「針と糸」で綴られていたベルリンの生活のあと、コロナ禍での大きな人生の転機を経て、長野・八ヶ岳山麓の標高約1600mの原生林に建てた山小屋での暮らしと、そこに至る過程を綴ったエッセイとなっています。
コロナ禍によりベルリン在住中に封鎖の危機に直面し、愛犬のゆりねとともに日本へ急遽帰国。この時期、長年連れ添った夫(通称「ぺんぎん」、音楽関係者で26歳年上)との離別・離婚も経験し、人生の先行きに深く悩み苦しみます。
東京のマンションに戻った後も、心のよりどころを探す中で、石ころだらけの厳しい土地ながら美しい森と出会い、運命的に土地を購入。長年の願いだった「自然のそばで暮らす」決断をします。
山小屋造りと移住の決断の連続の詳細が綴られています。 家づくりでは建築家・丸山弾さんに依頼し「頑丈で、温かく、優しい」家を求め、自分ひとり仕様ながら長く住み継げることを決意します。そして、地元のカラマツを多用した北欧風のシンプルな山小屋が完成。
環境配慮と地産地消を重視し、森の厳しさ(激しい雨風、標高の高さ)を前提に設計。完成時は最初狭く感じたものの、家具を入れてからはぴったりで「初日から住んでいたような感覚」になったとのこと。
ベルリン時代に影響を受け、古い建物を大切に住み継ぐ文化や「家を持つ」ことの価値を実感し、女性が一人で自分の家を持つことの重要性も語っています。
山小屋生活が始まると、衣食住がよりシンプルに。薪ストーブ、床暖、キッチンの工夫、愛用する道具やアート、ベルリンから持ち帰ったお気に入りの家具・器などが写真とともに紹介されています。
過去の両親との思い出が自然の中でふと蘇るなど、内省的な部分もあり、執筆スタイルや人生観の変化も記されています。全体を通じて「やりたいことは先送りせず、小さな一歩から」「自分らしい『いとしきもの』を見つけて」とのメッセージが込められています。
私もツバキ文具店シリーズのファンといってもいいくらいですが、彼女のルーツや価値観が深くわかる一冊となっています。彼女のファンには是非読んでほしい、そんな1冊でございました。