ふくふく書房でお夜食を / 砂川雨路

 古びた商店街の路地奥にある小さな書店「ふくふく書房」。店主は元料理人の夏郎と、その娘の成。看板犬のフクコ(可愛い犬)と猫の大福がお店を彩っている。

 通常は夜8時閉店だが、気まぐれに閉店後(21時過ぎ)に灯りがともり、美味しそうな料理の香りが漂うことがある。

 この時間帯だけ、書店は「書店兼食事処」として特別に開き、困りごとを抱えた人々がふらっと訪れる。夏郎の手作り夜食(定食のような温かな食事)と、成のデザートが、客の疲れた心を優しく癒やし、明日への力を与えてくれる。

 連作短編形式になっていて、各章で異なる客が登場します。最初は偶然訪れた一見さんから始まり、後半では常連さんも出てきます。

 同棲中の婚約者の浮気を目撃して傷ついた女性。女手一つで育てた娘が巣立って孤独を感じる母親。学校で居場所を失った少女など。

 各人が、自分はどうしたら良いのか。悩み苦しんでいる最中に、自然と「ふくふく書房」に足が向いてしまう感じが、なんかとてもいい感じに描かれています。

 全体の雰囲気として、ほっこり癒やし系という感じでしょうか。ペットたちの可愛らしさ、親子の穏やかな関係、客とのさりげない交流がとても魅力的な空間を感じさせてくれる内容です。 読んだ誰も「こんなお店があったら通いたい!」そう、思わせてくれるだろう。そんな本書でありました。