フェイク・マッスル / 日野瑛太郎

 第70回江戸川乱歩賞受賞作の本書。やはり賞を取る作品は安定して、面白いものが多い印象です。(笑)

 たった3ヵ月のトレーニング期間で、人気アイドル大峰颯太がボディービル大会の上位入賞。SNS上では「そんな短期間であの筋肉ができるわけがない、あれは偽りの筋肉だ」と、ドーピングを指摘する声が持ち上がり、炎上状態。

 当の大峰は疑惑を完全否定し、騒動を嘲笑うかのように、「会いに行けるパーソナルジム」を六本木にオープンさせる。文芸編集者を志しながら、「週刊鶏鳴」に配属された新人記者・松村健太郎は、この疑惑についての潜入取材を命じられ、ジムへ入会。

 馬場智則というベテラン会員の助力を得て、大峰のパーソナルトレーニングを受講できるまでに成長。ついに得た大峰との一対一のトレーニングの場で、ドーピングを認める発言を引き出そうとするが、のらりくらりと躱されてしまう。

 あの筋肉は本物か偽物か。松村は、ある大胆な方法で大峰をドーピング検査にかけることを考え付くが、工夫し苦労して手に入れた尿からは、陰性反応。

 ミステリーなので、ネタバレになるので詳細は書きませんが、面白いのは認めますが、すべてがうまくいきすぎるというか、えっ? そんなスキルが有るキャラだったの? そんなことは何回か思いましたが、とても楽しませてくれました。

 登場する女性が、スタンガンを改造したり、スマホのやりとりを盗むスパムウェアのスキルがあったりします。同僚の女性記者が、主人公を助ける際に、相手を後ろから絞め落とすスキルが有るなど。そんなとても都合のいいことがたくさんおきますが、ストーリーがとても楽しいので、許すことが出来ると思います。

 本書では「筋肉」と「ピアノ」を比喩して、とても印象的な対比をされています。私はスキーをもう10年以上していませんが、本書を読んで今シーズンはいってみようかな。そんなことを思わせてくれる本書でございました。