里山産業論 「食の戦略」が六次産業を超える / 金丸弘美


 地元の食材、料理で人の味覚を鍛え、地元の食文化をテキスト化して継承と伝達を効率化する。そして、個人の味覚と積み重ねた食文化を基点に町作りを行う。

 地域のブランディングとは、お金を地元に落とせない補助金や工場誘致ではなく、その地の「食文化」だという。そのためには人材を育成し、雇用も生みだしていく。「食の戦略」で育まれた人は、都市にとっても創造的な人物として得難い存在となる。

 ローカルこそ、人を育てられる。社会を変える最重要産業は「メシ」。世界遺産と街並みと集落と食を連携させ、人を呼び込むイタリア。「味覚の講座」で子どもの表現力・郷土愛を育み、輸出力を強化するフランス。一軒ではなく、地域全体の六次産業化をする日本の山間地など。日本に限らず海外の学ぶべき事例もたくさん紹介されています。

 「味覚を育むことは、豊かで個性的な子どもたちを育てることになる。その人たちが、社会を変えていく」と著者はいう。

 農業の六次産業化で付加価値を高めようという試みはかなり普及してきた。ただし、野菜出荷から漬け物を製造・出荷に変えるだけではなかなかブランド確立までは至らない。著者は、イタリアのNPOスローフード協会や、フランスでの食の表現力向上講座などの例も引きながら、農産品のブランド化戦略において「地域の食文化」が重要であることを主張しています。

 「日本の根強い誤解と失敗」という章がある。これまでの地域活性化の失敗例がたくさん紹介されています。「うちの地元もそうだ」と思い当たるものが多い。笑

 賑わうのはイベント時だけの一過性振興策、食べ放題で品質が落ちてリピート客が減少、健康度外視のB級グルメ、補助金頼りの食品加工場。

 地元産品をいくら「自然の恵みを受けて美味しい」といって売り込もうとしても、消費地の人々にはどれも同じで選択できない。ネギを例にすれば、深谷ネギ、九条ネギ、下仁田ネギなど、他のネギと味や栄養などの面でどう違うのか、どのような調理が適しているかなどまで説明する必要がある。

 地元食材を使ったレシピについても、歴史・文化の説明がセットになっていれば付加価値が増す。そのためにも、農業従事者だけで頑張るのではなく、地元大学の研究者や料理研究家も中心となった出版活動も有効になるという。

 地方創生は「食文化」を育てることがカギになる。どんなものを食わせたいのか。自分が食いたい、食って美味しいからこそ「分けてあげたい」そんな発想がとても大事なのだろうと痛感させてくれる本書です。

 県外の人に、美味しいから食べて欲しい。使って欲しい。口でいうのはなんとでも言えますが、お前は食っているのか、使っているのか。そうでないものを「よそ者」に勧めてもダメ。「自分の幸せを分けてあげる」そんな発想こそ、大事なのではないか。そんなことを考えさせてくれる本書でありました。

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