逃亡者は北へ向かう/柚月裕子

 柚月裕子さん、6冊目のアウトプットになります。あと2冊読了済みですが、読むのが面白くなってアウトプットが遅くなるという、よくあるパターンに陥りました。(笑)

 知りませんでしたが、本書は昨年の直木賞候補作ということだけのこともあり、とてもおもしろく、宮古の読書好きには是非読んでもらいたい、そんな1冊です。

 本の題名に「北へ向かう」とありますが、その北とは宮前市(あきらかに宮古市)です。主人公の出身地でもあり、福島県にいる主人公が、宮前市にいる父に会いにくるというストーリーなんですが、その父の元職が「リアス警備」という会社。友人の会社がアタマに浮かぶ。(笑)

 最後の舞台も「宮前小学校の体育館」で、宮小のニオイもプンプン。宮前市立病院も高台にあったり、宮前警察署が津波を食らったとか、宮古にお住まいの方であれば、とても情景が浮かぶことでしょう。(笑)

 本書は、2011年3月11日、東日本大震災が発生した直後の東北地方を舞台に、理不尽な不幸の連鎖に翻弄される青年・真柴亮(22歳)の逃亡劇と、それを執念深く追う刑事の物語です。

 亮は児童養護施設で育った天涯孤独の青年。福島県さつき市(いわき市を思わせる町)の町工場で働いていた。ある夜、酒癖の悪い先輩に無理やり連れていかれた店で半グレ集団とトラブルに巻き込まれ、喧嘩の末に相手を傷つけて傷害事件を起こす。

 警察に勾留され取り調べを受けている最中、未曽有の大地震と津波が襲い、混乱の中で処分保留となり釈放。家に戻った亮を待っていたのは、先日のトラブルで恨みを買った半グレの男。ナイフで襲われ、もみ合いの末に亮は相手を刺し殺してしまう。

 震災の混乱で死体は津波に流され、事件は発覚しにくい状況でしたが、亮はさらに不運に見舞われる。逃亡の途中で職務質問を受けた際、警官ともみ合いになり、拳銃が暴発し警官を死なせてしまう。

 これにより亮は「2人を殺害した連続殺人犯」として指名手配。亮は死刑を覚悟しながらも、どうしても北へ向かわなければならない理由があった。それは、震災直前に届いた一通の顔も知らない実の父親からの手紙。

 幼い頃に両親が離婚し、母親に育てられたものの母も早くに亡くなり、祖父に育てられた亮は、祖父から父親の悪口を聞かされ続け「捨てられた子」という呪縛を抱えて生きてきた。

 手紙には、彼が生涯求めていた「ある言葉」が綴られていた。亮はそれを知るため、壊れた道と被災地の混乱を北へ北へと逃げ続ける。逃亡中、亮は山中の廃屋で5歳の男の子・直人と出会います。この出会う場所が大渡市。宮前から南に車で2時間と、明らかに大船渡あたりの設定です。

 口をほとんどきかない直人ですが、なぜか亮に懐き、手を握って離れない。孤独な亮にとって、直人は初めての「自分を必要としてくれる存在」となり、一緒に暮らしたいとさえ思うようになる。

 しかし、直人は津波で家族を失った漁師・村木圭介の息子で、父親は必死に子を探し続けていた。一方、亮を追うのは福島県警の刑事・陣内康介。陣内自身も津波で娘が行方不明となり、家族の捜索を後回しにせざるを得ない状況で、妻との関係も悪化。それでも職務に徹し、亮の足取りを執念深く追い続ける。

 被災地の惨状、遺体安置所の描写、生き残った人々の苦悩が克明に描かれ、単なる追跡劇を超えた「震災後の正義や理不尽さ」を問いかける物語です。クライマックスでは、亮は直人を連れたまま避難所になっていた宮前小学校の体育館に逃げ込み、被災者たちの中に立てこもる。

 狙撃手も含む警察に包囲され、人質事件として扱われる。そこで陣内を通じて亮は、ある「真実」を知ることになる。手紙の言葉、父親との関係、そして自分の人生の不条理。すべてが明らかになる中、亮の逃亡は悲劇的な結末を迎えます。

 震災さえなければ、人生は違ったかもしれない。亮の不運の連鎖、ほんの一瞬の温もり(直人との出会い)、そして司法や社会の揺らぎが、やるせなさと感動を残すサスペンスといった感じでしょうか。

 宮古にいる読書好きの人と出会ったら、必ずオススメする一冊に出会えた様な気がして、とても大満足。そんな一冊でありました。