先日IBCの66周年番組に著者が出ていました。釜石出身の小説家がいるのは知っていましたが、何も読んでいなかったのでせっかくなので思い、なにか読んでみよう。そう思い手に取りました。
小説家さんなので、小説から読もうかとも思いましたが、本書はミステリー作家・柚月裕子のデビュー(2008年)から約15年間の軌跡をたどるエッセイ集です。
小説家さんのエッセーを読むと、小説が生み出される背景や取材の経緯、さまざまな人間関係など、あの小説のこの場面は、こんな裏があったのか。そんなことをとても感じさせてくれることが多いので、最初にエッセーから読むのも良いのではないか。そんなきっかけもありました。
釜石出身ということをとてもフューチャーされていますが、実家は宮古という事実をしりとても親近感を覚えました。震災と宮古での胸に迫るエピソードが綴られておりました。
東日本大震災で実家があった岩手県宮古市の被災体験。震災当日、山形在住の作者は両親と連絡が取れなくなり、1週間後にようやく宮古に入り。実家があった場所は津波で何も残らず、あたり一面が泥の更地となっていた。両親を探して遺体安置所を訪ねる日々が続く。震災から2週間後に義母、3週間後に父の遺体が発見。父の遺体の上には、愛用していた腕時計がビニール袋に入れて置かれ、日付は3月11日のまま止まっていた。作者自身が遺体の確認を行い、親族の車で安置所を回った経験も率直に記されています。
本書は二部構成となっており、日常の出来事、創作の裏話、幼少期の思い出、旅や猫などのささやかなエピソードが温かく、時に率直に綴られています。「ふたつの時間」は東日本大震災を境に分断された二つの時間を描かれています。
震災の日で止まったままの「時間」と、それ以降も流れ続ける「時間」。津波で両親を失った作者の哀別と、喪失感が強く印象的です。
「ふたりの自分」作家としての自分と、主婦(日常を生きる)としての自分という二つの自分。書く喜びと書き続ける苦悩、迷いや不安を率直に振り返っています。引っ越しを繰り返した孤独な幼少期では、数少ない「友達」が両親が与えてくれた本の物語の世界だったことなども語られています。
全体を通じて、作者の原点(本や物語への愛、故郷・岩手への思い)、人としての成長の停滞や変化のなさへの気づき、理不尽や不条理に向き合う姿勢が感じられます。笑いと涙が交じり合い、読者に共感や胸の締め付けを与える内容です。
本書は柚月裕子という作家の内面と人生の断片を、震災という大きな喪失を軸に「時間」と「自分」の二重性をキーワードとして丁寧にまとめた、誠実で温かなエッセイ集でありました。柚月裕子という作家を読み込もう。そう思うには十分刺激を頂ける本書でありました。