あとがきで書いていましたが、著者自身の20代のマルチ商法にどっぷりとハマっていたらしい。たくさん稼いだが最後は借金地獄に陥った、そんな体験を基にした超リアルなサスペンス小説らしいです。
主人公・鹿水真瑠子は21歳。賢くて美人の姉・真莉、可愛らしい妹・真亜紗に比べて自分には何の取り柄もないと感じ、劣等感と承認欲求に苛まれながら、夢も目標もなくダラダラと生きていた。
ある日、バイト先の掲示板に貼られた「磁力と健康セミナー・無料開催」という怪しげな貼り紙をきっかけに、HTF(通称:健康増進協会お墨付きの高額磁気マットレスを扱うマルチ商法組織)に足を踏み入れる。
最初はただ「誰かに認められたい」という思いから参加しただけでしたが、真瑠子は意外な才能を発揮する。魅力的な声と熱意で人を引きつけ、短期間で次々とダウンライン(下の会員)を増やし、組織内で急激にランクアップしていく。
「人を応援することが自分の幸せになる」「みんなで夢を追おう」という言葉に酔いしれ、仲間からの称賛と成功体験に中毒になっていく。しかし、現実はそう甘くはない。
高額マットレス(数十万〜100万近く)を買わせるため、自分で借金をして「自分で買ったことにして」契約を水増ししたり、親や知人に無理やり買わせたり。
月収150万を超える時期もあったものの、実際は自転車操業で雪だるま式に借金は膨らみ、700万円近くに達する。そして、組織内で商品に問題が発生すると、上層部ごと分裂・移動を繰り返し、今度は仮想通貨や別の怪しいビジネスに移行していく。
真瑠子はさらに深みにハマり、拉致まがいの強引な勧誘、監禁レベルのミーティング、睡眠時間削っての活動など、スリリングな展開が訪れます。
物語の終盤は「このまま破滅一直線」で不幸のどん底の流れかと思いきや、実は真瑠子自身が「マルチの子」として生まれつきの才能の持ち主だったという展開になっていきます。
彼女はマルチに「騙された被害者」だったのに、マルチの構造を理解し、利用し、成功し続けるという。そして最終的に家族もマルチに巻き込んでいくストーリーは、なんともいえない後味を残してくれる物語でございました。
あとがきで著者はマルチにハマりやすい人の特徴についてあげていました。「自分に満足できない人」「勉強熱心な人」「自己評価の低い人」そんな人達はそこら中にいる。だれでもがハマる可能性があるので注意喚起する気持ちで、本書を書いたという。
私はマルチ商法に関して、巻き込まれたことも無ければ、興味も持ったことはありません。しかし本書では「マルチにハマる心理」「抜けられなくなる仕組み」「常識が壊れる過程」がとても克明に描かれています。こんな世界には立ち入ってはだめ。そんなことを認識させてくれる本書でありました。