対馬の海に沈む / 窪田新之助

 先日、夜の会合をご一緒した方から読んでくださいと、言われたらしく、i-phoneに写真が入っていたので、早速オーディブルで聞いてみました。(笑) Amazonの紹介文はこんなです。

 人口わずか3万人の長崎県の離島で、日本一の実績を誇り「JAの神様」と呼ばれた男が、自らが運転する車で海に転落し溺死した。44歳という若さだった。彼には巨額の横領の疑いがあったが、果たしてこれは彼一人の悪事だったのか? 職員の不可解な死をきっかけに、営業ノルマというJAの構造上の問題と、「金」をめぐる人間模様をえぐりだした、衝撃のノンフィクション。

 本書の中で「自爆営業」ということばが、何回も出て来るんですが、なんか聞き覚えがあって、過去のアウトプットを探してみたらありました。「農協の闇 / 窪田新之助」を読んだとき聞いた言葉です。著者の本だったので当たり前といえば、当たり前ですね。(笑)

 冒頭で、本書の題名である「対馬の海に沈む」という、車が海に突っ込んで、引き上げられて、野次馬がたくさんいてと、そんな感じなのでミステリかと思ってすすんだら、完全なノンフィクションでした。

 「第22回開高健ノンフィクション賞」というやつを受賞しているんですが、Amazonでは選考委員のコメントが載っています。

 ●ノンフィクションが人間の淋しさを描く器となれた、記念すべき作品である。 ●取材の執拗なほどの粘着さと緻密さ、読む者を引き込む力の点で抜きん出ていた。 ●徹底した取材と人の内なる声を聞く聴力。受賞作に推す。 ●地を這う取材と丁寧な資料の読み込みでスクープをものにした。 ●圧巻だった。調査報道の見本だ。最優秀な作品として推すことに全く異論はない。

 選考委員のいうとおり、これを全部取材で書き上げたというのは、確かに圧巻です。

 JAの共済事業には過酷な営業ノルマがあり、それをこなせない職員は自爆営業(営業目標を達成するために自分や家族の名義で不要な共済を契約すること)をしてきた。自爆せずに済ませようと、一部の職員は顧客に不適切な契約をさせる。

 あるいは自爆した金を取り戻すため、横領に手を染める。「農協の闇」の取材でそんな不正のカラクリと、職員や組合員たちの苦しみを告発するため、各地の不正事件を調べる中で見つけたのが「JA対馬」だったという。

 職員だった西山義治は11年から共済金を不正に流用。その手口は、顧客に払うべき共済金を自身や親族の口座に入れたり、事故を捏造して共済金を架空請求したりするというもの。それが発覚して責任を追及され始めた矢先、自ら運転する車で海に飛び込んで亡くなった。

 西山はほかのJA職員と違って、ノルマをものともしないような営業実績を上げていた。それゆえ、全国で毎年数人だけにしか与えられない「総合優績表彰」を12回も授与されたという。その営業実績は「総合優績表彰」においても、ほかの受賞者を大幅に引き離すほど。プレゼンターが仲間由紀恵で「また、来ましたね♡」と行って賞状を渡したという。(笑)

 それなのに西山はとんでもない顧客を獲得していた。彼が亡くなった19年2月末時点で、対馬の人口は1万5110世帯、3万901人だった。西山はこの時まで、実に2281世帯4047人分の契約を取っていたという。これは対馬の人口の1割以上に相当する数字。

 どんだけ、すごいやつなのかと思いましたが、凄いといえば凄いですが、私には、取り巻きを操っていくのが、とても上手な印象という感じでしょうか。

 事件の責任を負うべきは、決して西山一人だけではなく、意図的に協力していたものもいれば、疑いもなく協力していた人もたくさんいるなど、JAグループという巨大組織が複雑に噛み合っているのでは無いか。

 現代のネット時代では、本書で紹介されているような状況が現実にあるとしたら、簡単に暴露されて世の中にすぐ広がってしまうので、現在は改善されているのだろう。

 むかしの状況はどんなだったのか。私が本書で知り得たこととどれくらい相違があるのか。そして現在はどうなのか。よく知っているJA職員がいるので、こんど根掘り葉掘り聞いてみようと思います。