犯罪加害者家族の支援を長年行ってきた著者が、実際の経験に基づき、多くの人が「お金があれば幸せになれる」と信じているが、著者が見てきた現実では、むしろ裕福で何不自由ないように見える家族ほど、深い闇を抱えやすいという逆説が描かれています。
お金が「足りない」よりも「ありすぎる」方が、人を壊しやすく、家族の関係を狂わせるという。著者は、お金が家族内の支配や依存を生み出し、バランスを崩す「魔物」のような側面を持つと指摘。
社会的地位や財産があるにもかかわらず、家族間の確執、兄弟の断絶、配偶者による性犯罪、子どもの引きこもりといった問題が起きやすく、これらがお金によってさらに深刻化するケースを、複数の実例を通じて紹介しています。
例えば、富裕な家庭に育った三姉妹の間で起こる激しい争い、実家から出られずに闇に落ちていく三女の物語、エリート家庭で長男が引きこもりになる過程、田舎の名士に嫁いだ女性が夫の性犯罪に苦しみながら世間体に縛られて抜け出せない苦悩などが語られています。
また、子どもを有名大学に入れるために塾講師を買収しようとする親の事例など、恵まれた環境が逆にプレッシャーや歪んだ人間関係を生む様子が痛々しく描かれています。
これらの事例を通じて浮かび上がるのは、富裕層特有の世間体への過度な執着。お金と地位があるからこそ、家族の問題を外部に漏らさず「体面」を守ろうとする構造が、かえって人々を孤立させ、逃げ場をなくしてしまう。
日本社会では家族と個人が強く結びついているため、事件が起きれば家族全体が厳しい目で見られやすく、特に伝統的な価値観が残る中で自立しにくい状況が不幸を増幅。
お金は本来便利なツールですが、相続などで得た資産家家庭では、自分で築いたものではない場合に特に、依存や支配の関係を強めやすいようです。
本書は単に「お金持ちの不幸」を並べるだけでなく、こうした現実を通じながら「幸福とは何か」を根本から問い直し、失うことで初めて自由になれる現実や、世間体を超えた人間関係の大切さ、個人の尊厳を取り戻すことの意味を、読者に考えさせる内容です。
お金が人を駄目にし、家族の歯車を狂わせる瞬間を、支援現場のリアルな視点で描かれています。裕福に見える家族の裏側を知りたい人や、幸福の基準を改めて見つめ直したい人に、強くおすすめできる内容です。
そして、事例紹介が小説仕立てになっている点が、とても秀逸でリアルです。題して「金持ちが不幸になる短編集」といった様相も兼ね備えています。この手の本を読まない小説好きの人にも楽しめる1冊でしょう。