ミカエルの鼓動 / 柚月裕子

 IBCの66周年番組で出ていたのをキッカケに読むことにした柚月裕子さん。本書は医療系の小説です。医療系の小説って面白いんですけど、自分がこうなったらとか想像して、体の中に違和感?とか感じる時があって、イヤなときもあるんですがなんとか読了。著者の本は4冊目のアウトプットになります。

 北海道中央大学病院(北中大病院)を舞台に、手術支援ロボット「ミカエル」を推進する心臓外科医・西條泰己(さいじょう やすみ)は、ロボットによる遠隔操作手術の実現を通じ、医師不足の地域でも平等な医療を提供するという理想を掲げ、病院内でその第一人者として地位を築いていた。

 病院長・曾我部や経営部門の雨宮香澄らの支持を受け、ミカエルを病院の看板にしようと動く西條の前に、ドイツから帰国した天才心臓外科医・真木一義(まき かずよし)が現れる。真木はミカエルを使わず、従来の開胸手術を驚異的な速さと正確さで完遂し、西條に強い対抗心を抱かせる。真木を招聘したのは曾我部だった。 

 物語は難病を抱える12歳の少年・白石航(しらいし わたる)の治療方針をめぐって大きく動く。先天性心疾患(完全型房室中隔欠損症など)を持つ航に対し、西條はミカエルを用いたロボット支援手術を主張。一方、真木は患者の小さな心臓に適した従来の開胸手術による弁形成術を強く推す。二人は激しく対立し、西條は「医療の未来」と「平等な医療」の実現を、真木は「目の前の患者の命を最優先に救うこと」をそれぞれの正義としてぶつけ合う。 

 そんな中、西條を慕っていた若手医師・布施が自殺。彼はミカエル関連の医療ミスを指摘され、「ミカエルは偽物だ」と言い残していた。また、大学病院の闇を暴こうとするフリージャーナリスト・黒沢巧が西條に迫り、「ミカエルは人を救う天使じゃない」と告げる。

 西條はミカエルに不具合(欠陥)がある可能性を突き止め、病院側がそれを隠蔽していた疑いを知る。名声や病院の未来、自身の地位、医師としての倫理が絡み合い、西條は深い葛藤に陥る。ミカエルを推進する立場にありながら、技術の限界や人間の役割を問い直さざるを得なくなる。 

 航の手術は当初ミカエルを使用する方向で進むが、手術中に西條はミカエルの異常な動きに気づく。人工心肺下で心臓が止まっている状況で、少年の心臓の「鼓動」を幻視するような描写が象徴的に描かれる。

 西條は自身の驕り(自分を「神」のように思い上がっていたこと)とミカエルの限界を痛感し、真木の協力を得て方針を転換。真木の「神の手」とも称される職人的な技術を借り、二人の医師が協力して航の命を救うクライマックス。

 西條は真木の「命を救うのは神ではなく、人間は道具に過ぎない」という謙虚な姿勢を理解。 医療の最先端(ロボット)と伝統的な人間の技量、理想と現実、個人の野心と倫理が交錯する重厚な医療小説となっています。

 物語はプロローグの旭岳遭難シーンから始まり、エピローグでその意味が明かされる形で締めくくられますが、が、です。 最初の遭難シーンがとても印象深くて、あれはなんだったの? いつ出てくるの? あいつは誰だったの? そんなことをずっと思いながら読みましたが、こんな締めくくりですか・・・と、腑に落ちるような内容でございました。

 医療系の小説って何冊も読んだことがありますが、これらの医療に関する知識や業界事情など全部取材で書きあげるって、いつも思うのは「小説家ってすげぇ〜なぁ〜!!」とそんな抽象的な言葉で閉めさせていただきます。(笑)