BUTTER / 柚木麻子

 読む前は気が付かないで手に取りましたが、本書は、実際の首都圏連続不審死事件(木嶋佳苗事件)をモチーフにしたフィクション小説です。私も木嶋佳苗関連の本は何冊か読んでいたので、内容はとてもすんなり入って来る感じでございました。

 本書は「美食と犯罪」「女性の欲望と社会のルッキズム」を融合させた社会派エンターテインメントとして、海外でも高評価を受けているという。

 週刊誌記者の町田里佳(34歳)は、結婚詐欺と複数の男性殺害容疑で拘留中の梶井真奈子(通称カジマナ、42歳)の独占インタビューを目指す。カジマナ(※キジマカナエからモジッた名前)は、若くも美しくもない容姿なのに、被害者男性たちを夢中にさせ、多額の金銭を貢がせた末に殺害したとされる「平成の毒婦」。

 里佳は親友の伶子の助けで面会を許され、カジマナから「本物のバターを味わえ」という指令を受ける。カジマナはマーガリンを嫌悪し、本物のバターを使った贅沢な料理を里佳に強要する。

 里佳は最初抵抗するが、指示に従って高級バターや食材を買い、豪華な料理(ビーフウェリントン、七面鳥の丸焼きなど)を作り、食べ続ける。カジマナの影響で里佳は太り始め、内面も変化。ダイエットに縛られていた里佳が、欲望に忠実になり、食欲や性欲を解放していく様子が描かれています。

 そしてカジマナの過去が明らかになる。彼女は料理上手で、婚活サイトや料理教室を通じて男性を引きつけ、貢がせていた。被害者男性たちはカジマナの料理と自信に満ちた態度に魅了され、財産を失い、不審死を遂げる。

 カジマナはフェミニストを自称しつつ、男性を操る術を里佳に伝授。里佳はカジマナに翻弄され、恋人や周囲との関係が崩れていく。親友の伶子との友情も複雑化し、嫉妬や依存が絡みだす。

 里佳は太った体を「激太り」と揶揄されながらも、初めての充足感を抱く。クライマックスでは、里佳がカジマナの「教え」を実践し、自分らしい生き方を見つけます。カジマナの事件の真相(殺人か事故か)は曖昧に残されつつ、里佳はインタビューを完成させるが、記事は掲載されず、里佳自身が変化したことで物語は終わる。

 里佳はカジマナのような「魔性」を身につけ、欲望に正直に生きる道を選び、周囲の人間関係も変容。カジマナは里佳にとって「気づき」を与える存在として機能し、自己啓発的な結末を迎えます。

 タイトル「BUTTER」は、食材のバター、カジマナの生き方(欲望をトロけさせる)、絵本「ちびくろさんぼ」の虎がバターになることをモチーフにしているようです。

 全体として、女性の「適量」を探す旅と、社会の抑圧に対する反抗を描いた感じで、料理の描写が圧倒的に魅力的で、どれもこれも美味しそうで、里佳が太って行く様子にとても同調してしまいました。
 カジマナの指示で「セックスしてからにラーメンを食え」それも「BUTTERマシマシで!」というのがあるんですが、私はラーメンにBUTTERを入れるとか、あんまりしたくない方なんですが、機会があったらしてみようか。そんなふうに思わせてくれる本書でありました。

 加えてカジマナは極度にマーガリンを、トランス脂肪酸の塊だと、強く嫌悪感をしめしておりました。私も食物添加物系の本をだいぶ読んだので、カジマナほどではありませんが、マーガリンはある程度ですが、避けるようにしています。そんな少し同調できることがあることがあるだけで、物語って頭に入りやくなるという、そんな不思議な感覚を体験することが出来ました。(笑)