子ども食堂を舞台にした、4人の子ども目線で描かれる、そんな物語の短編集です。
第一章 碧海麻耶のはなし
第二章 八潮闘志のはなし
第三章 柏浦乃のはなし
第四章 湾田一平のはなし
第五章 また碧海麻耶のはなし
「子ども食堂=貧困家庭」と、私は少なからず、そんなイメージを持っていました。しかし、本書では、第一章の碧海麻耶ちゃんは、まさに貧困家庭そのものというかんじで、お父さんとお母さんがある日、家からいなくなり、家にある食料は尽きて、電気や水道を止められてしまい、「子ども食堂かみふうせん」に寄り添って行く様子が描かれています。
子ども食堂がなければ、この子はどうなっていたのだろう。そんな心配をこちらもしてしまう、そんな物語でございました。他の3人はどちらかというと、機会というか、集いの場を求めてというか、一人でご飯を食べないようにするため。そんな、少なからず貧困が理由でこども食堂を利用している感じでは無いのが、とても印象的でありました。
第二章の柏浦乃ちゃんは、第二章の八潮闘志くんに恋をしているけど、なにも出来ない、そして自分に自信を持てない女の子のお話です。ある日、八潮闘志くんがこども食堂に出入りしていることを知り、更に子ども食堂は誰でも大歓迎ということを知り、彼と近づきたくて、そこに向かいます。
TRPG(テーブルトーク・ロールプレイング・ゲーム)が、大好きな柏浦乃ちゃんはそれを持ち込み、食事前に集まったメンバーを盛り上げ、愛しの八潮闘志くんから「ゲームの達人」呼ばわりされて大満足。その後、みんなでカレーを食うことに。この後は、コピペします。(笑)
カレーは、野菜がたっぷり入っていた。 ルーの上に、丸く小山の形にお米がよそわれ、頂上部分に細く縦長に切られた二切れの赤いパプリカが立つように刺さっている。中腹部分にはレーズンが二つぶ埋めこまれ、皿を後ろに回して見ると、ふもとの部分にカリフラワーがあった。
まるで、草原仕立てのカレールーの上に、お米と野菜でできたウサギがいるみたい。なんて、かわいいのかしら! 食べるのが惜しくて、わたしがじっと見つめていると、おばさんがニコニコと話しかけてきた。「気に入ってくれた? うちは、食堂と言っても、素人がやっているからね。味で勝負できない分、見た目でがんばってみようと、料理の本をまねして作ってみたんだわ」 「すごく気に入った! 食べるのが惜しいくらい!」
わたしはスプーンを握りしめ、おばさんに答えた。「そりゃ、よかったわ。でも、冷める前に食べてね」おばさんの言うとおりだ。わたしは、スプーンでカレーのルーをすくって食べようとして───。 ───見てしまった。
わたしの向かいに座っている闘志くんが、背中を丸めて顔をカレーのお皿に近づけ、スプーンを下から握って手首をそる形で持ち、かきこむように食べる姿を。「闘志くん。いつも言うようだけど、背筋をのばして食べた方が、食べやすいんだわ」おばさんが、遠回しに闘志くんへ注意をする。「平気平気。おれ、この格好の方が食べやすいんだ」
闘志くんは、おばさんの言いたいことをまったく理解せず、カレーをかきこんでいく。姿勢を良くして、エンピツを持つような手つきでスプーンを持って、食事をする。そんな当たり前の食事の仕方を、闘志くんはできていなかった。最高に意地汚く、食べていた。カレールーで口のまわりはベトベトになり、前髪にも今にもくっつきそうだ。
わたしの胸の中で、盛大な音を立てて、何かがくずれ去って行った。
柏浦乃ちゃんの「2年越し恋」は、闘志くんの下品な食い方の悪さで、一瞬にして冷めてしまいます。むかし、王貞治さんの娘さんの王理恵さんが、婚約者の蕎麦の食べ方がイヤで婚約解消をしたのを思い出させてくれました。(笑)
子ども食堂のおばさんから、柏浦乃ちゃんは、TRPG(テーブルトーク・ロールプレイング・ゲーム)をしにまた来て欲しい、ボランティアをしてほしいと頼まれ、自分に自信を持てるようになっていくというストーリーになっています。
けなげな少女が、一途な闘志くんの恋から始まった行動が、恋の破局と自己成長につながるという、とても素敵なお話でございました。(笑)