最後の証人/ 柚月裕子

 IBCの66周年番組で出ていたのを、キッカケに読むことにした柚月裕子さん。著者の本は5冊目のアウトプット。いい感じの読書の連鎖になっております。(笑) 本書は法廷系ミステリー小説ですが、この手のジャンルは、頭脳戦、どんでん返し、人間ドラマの組み合わせが、進んでいく様子はなんとも面白いですね。

 元検事の敏腕弁護士・佐方貞人を主人公とした法廷ミステリー。物語は、高層ホテルの一室で起きた刺殺事件の裁判を中心に展開し、並行して7年前の交通事故が描かれ、最後に大きなどんでん返しが待っています。

 検事を辞めて刑事事件専門の弁護士となった佐方貞人のもとに、殺人事件の弁護依頼が舞い込む。事件はホテルの一室で女性がステーキナイフで心臓を刺されて死亡したというもので、現場に残された指紋や返り血のついたバスローブなどの物的証拠、状況証拠から、被告人の有罪はほぼ確実視。

 被告人は地元で有名な実業家・島津邦明で、被害者は彼の不倫相手の離婚したばかりの主婦・浜田美津子。検察側は、結婚を迫られた島津が逆上して殺害したという痴情のもつれによる犯行だと主張し、若手ながら敏腕の女性検事・庄司真生が立証を進めます。

 島津は一貫して「殺していない」と主張するが、状況は極めて不利。それでも佐方は「面白くなりそう」という理由で弁護を引き受け、法廷で庄司検事と対峙。

 裁判の進行と並行して、7年前に起きたある交通事故の物語が詳しく語られます。当時小学5年生だった高瀬卓が、塾の帰り道に車にはねられて死亡。一緒にいた友人の証言では、加害者の車は赤信号を無視し、飲酒運転の疑いもあったのですが、加害者である島津邦明が県の公安委員長という影響力のある立場だったため、警察は友人の証言に信用性がないとして不起訴処分とし、事件は闇に葬られました。

 息子を失った両親の高瀬光治と浜田美津子(旧姓高瀬)は、深い悲しみと怒りに苛まれ、加害者側への復讐を誓う。夫婦は長い時間をかけ、復讐の計画を練り上げる。美津子は島津の陶芸教室に通って不倫関係を築き、離婚して島津に近づき、結婚を迫るという工作を進める。

 公判は三日間にわたって行われ、検察側の立証は強力で、佐方側は有効な反撃ができず敗色濃厚。しかし、公判最終日、佐方は異例の追加証人申請を行い、元警察官の丸山秀雄を「最後の証人」として呼び出します。

 この証言によって、事件の真相が一気に明らかに。実はこの殺人事件は、7年前の交通事故の被害者家族による巧妙な復讐劇だった。美津子は島津にナイフを突きつけて迫り、最終的に自ら心臓を刺して死亡し、状況を島津が殺害したように演出。

 夫婦の計画は、島津を法的に裁かせるためのものだったのですが、佐方の介入により島津の無罪が確定。裁判員と裁判官は島津を無罪としますが、裁判長は7年前の事故の再調査が始まることを示唆する説諭的な言葉を残。

 前半で読者に「痴情のもつれによる殺人」という先入観を植え付け、後半でそれを完全に覆す大逆転。佐方貞人は被告人の言葉を信じ、自分の勘を頼りに真相に迫る姿勢が印象的で、法と良心のバランス、正しい罪で裁かれるべきというテーマが深く描かれている感じです。

 復讐の心理描写と法廷の緊張感が巧みに交わり、読後感に強い余韻を残す法廷サスペンスでございました。佐方シリーズのスタート作ということで、続編も手に取ってみようと思います。