最近はずっと本屋大賞2026のノミネート作品ばかり、読んでいましたが少し中休みで久しぶりの垣谷美雨さんの作品です。
この「病棟シリーズ」は「希望病棟」と「後悔病棟」は読了済みですが、本書は「絶縁」に関する物語でございました。
主人公は神田川病院のアルバイト医師・桐ヶ谷キワミ(55歳)。三度の離婚を経験し、今は自分の人生を趣味中心に楽しむ自由な生き方をしている女性医師。
このシリーズの特徴である「患者の心の声が聞こえる不思議な聴診器」を使い、身体の不調の原因が実は「有害な人間関係(悪縁)」にある患者たちを診ていきます。
検査では異常なしなのに体調不良を訴える3人の女性患者(71歳、37歳、29歳)が登場し、それぞれのエピソードで「絶縁」がテーマとなっています。
70代の患者:熊野佐奈枝(71歳)近所に住む独身男性から執拗な言い寄り・ストーカーまがいの行為を受け続け、心身ともに追い詰められている。キワミが聴診器で心の声を聞くと、この男との「縁」が最大の病因だと判明。身体症状(動悸・不眠・胃痛など)はすべてこのストレスから来ている。キワミは「絶縁処方箋」を出し、警察への相談・接近禁止の徹底・引っ越し検討などを具体的にアドバイス。最終的に佐奈枝は勇気を出して縁を断ち切り、症状が劇的に改善。穏やかな老後を取り戻す方向へ。
37歳の患者(毒親・パラサイト家族編)実の親(特に母親)から過度な干渉・搾取を受け続けている。成人しても金銭的・精神的に親に依存させられ、自由がない。親は「親孝行」を盾に搾取を正当化。聴診器で聞こえる心の声は「もう関わりたくない」「解放されたい」という叫び。しかし家族という「切れないはずの縁」ゆえに葛藤が激しい。キワミは「絶縁も選択肢の一つ」と諭し、経済的独立・物理的距離を取る方法を提案。最終的に患者は親との絶縁を決意。連絡を絶ち、転居して新しい人生をスタートさせる。この話はシリーズの中でも特に「絶縁の難しさ」と「それでも必要な場合がある」ことを強く描いている。
29歳の患者(最も怖い・異常な干渉編)家族(特にきょうだいや親族)から異常なまでの「優しさ」や監視・干渉を受けているケース。表面上は「家族思い」に見えるが、実際は患者の人生を支配し、自立を徹底的に阻害している。聴診器で聞こえる本音は恐怖と絶望。「優しさ」という名の束縛が最大の苦痛。キワミの処方箋により、患者は完全に縁を切る決断をし、症状が消えていく。
全体を通して、キワミは「切るべきは病巣ではなく、人間関係」という信念のもと、患者たちに「絶縁」という究極の治療法を提示。ユーモアと辛辣さを交えつつ、毒親・ストーカー・過干渉といった現代的な「悪縁」の問題を真正面から扱った、痛快かつ考えさせられる作品でありました。