宿命の子 上 安倍晋三政権クロニクル / 船橋洋一

 安倍元首相はいかに首相に返り咲き、戦後の難問に対峙したか。病に倒れた第1次政権から5年、安倍晋三は再び自民党総裁選に立つことを決意した。それは7年8カ月に及ぶ政治ドラマの幕開き。

 アベノミクス、靖国参拝、尖閣問題、TPP、戦後70年談話、平和安全法制。次々に浮上する政治課題に、安倍と彼のスタッフはいかに立ち向かったか。

 安倍本人をはじめ、菅義偉、麻生太郎、岸田文雄などの閣僚、官邸スタッフなどに徹底取材、政治の奥に迫る第一級のノンフィクションです。

 本書を読んで一番感じたのは、増税に絡む財務省との戦いの様子です。財務省関連の本は何冊も読んだけれど、これほど財務省の政治家に対する洗脳というか、増税圧力を生々しく感じるものは初めてでございました。

 「アベノミスク」にも大分触れています。「黒田バズーカ」に代表されるような経済政策を遂行する上でかわされる、財務省とのやりとりもとても生々しい。(笑)

 著者の人脈なのだろうか。政権内部まで深く入り込み、交わされた会話の内容やその日時まで詳細に、そして正確に記されています。忖度でもなく批判だけでもない、そんな細部にいたる文章はは、まさにジャーナリストの真骨頂だと思わされる内容に仕上がっている。そんな印象でございました。

 じつは第3次安倍政権も視野に入れていた。そんなことを書いてある本もありましたが、日本の政界にとって貴重な人材を失ったのには間違いありません。御冥福をお祈りします。