羆風・飴色角と三本指/戸川幸夫,矢口高雄

漫画と思って侮るなかれ。笑 1000ページオーバー。読んでも読んでも終わらなかった。しかし、引きつけてくれるそんな内容でありました。

大正4年12月。死者6名、負傷者3名を出した、日本史上最悪の獣害事件「北海道三毛別熊害事件」を戸川幸夫が小説化したものを、矢口高雄さんがマンガ化した本書。

すごく印象的だったのは、羆(ヒグマ)側からみた人間の行動や自分の心情描写。ただただ恐れるという人間の理不尽な心情に対して、羆(ヒグマ)からみた人間の行動こそ、理不尽ではないのか。そんなことを非常に考えさせてくれる内容です。

「北海道三毛別熊害事件」

クマ関連の本を最近何冊か読んでいますが、実は初めて目にする事件でありました。報道と呼ばれるものは新聞しかなかった時代。今ならどれくらいの騒ぎになるのか。それくらい凄惨な事件です。

開拓民の集落に対し、巨大な牡のヒグマによる襲撃が繰り返され、僅か2日間のうちに

女子供を中心に6名(胎児を含めると7名、後遺障害で死んだ子供を含め8名)その他3名重傷。

最初に命を奪われた女はクマに山へ連れ去られる。一緒にいた子供も命を奪われる。その子供の通夜にまた熊が現れた。なんとかクマを追い払うが、数百メートル離れた民家を襲う。そこには、女と子供が避難という名目で集っていた。

身ごもった女も襲われる。「腹破らんでくれ!」「のど喰って殺して!」これは事件のことを検索するとサイトによく出てくる言葉です。そんな言葉も虚しく襲われてしまう。

矢口高雄さんの描写力はもちろんありますが、そのクマに襲われる恐怖や臨場感。襲われた惨状から悲しみまで。とても心打たれるほど、感情移入出来る内容です。

「飴色角と三本指」との2本立て。

昭和36年3月、羚羊(カモシカ)の生息地として知られる七ヶ宿(宮城県刈田郡)が舞台。三本指と呼ばれる密猟者が飴色角と呼ばれる羚羊を執念で追う物語。

バランス的には羆風が8割でカモシカが2割クライ。

カモシカの話も十分引き込まれる内容ではありましたが、羆風。北海道三毛別熊害事件に引き込まれ、本当に羆は恐ろしい。それと同時に人間と共存するためにはどうしたらいいのだろう。そんなことを考えさせてくれる1冊でありました。

29 th in September / 267 th in 2022