鎌倉の山麓にある小さな古い文具店「ツバキ文具店」を舞台に、主人公の雨宮鳩子(ポッポちゃん)が祖母から受け継いだ代書屋の仕事を引き継ぐ物語。
 厳格な祖母カシ子の死後、鳩子は家出の過去を振り返りながら、様々な依頼者の手紙を代筆する。友人への絶縁状、借金のお断り、天国からの手紙、離婚の報告など、身近な人だからこそ伝えられない想いを、鳩子が心を寄せて言葉にする過程で、依頼者たちの人生に触れ、自身の祖母への未練や成長に気づいていく。
 鳩子の代筆する手紙が、どれも依頼者の人生の一片を映し出す点にとても心を奪われた。それぞれの背景に深いドラマが隠れていて、読み進めるたびに胸が締め付けられるようでした。
 鳩子が依頼者の言葉にならない想いを汲み取り、丁寧に文字にしていく過程は「まるで心の翻訳」のようだとレビュー‐で書いている人がいましたが、なかなか的を得ているような気がします。
 彼女の繊細な感性と、時にユーモラスな視点が、物語に軽やかなリズムを与え、重くなりすぎないバランスが絶妙です。
 厳格だった祖母との確執や、彼女が残した教えが、鳩子の成長とともに新たな意味を帯びていく様子に、家族の絆や過去との向き合い方など、とても考えさせられるそんな内容でございました。
思い出などが鎌倉の風景や、その文具店の雰囲気と重なり合う感じは、どこか懐かしく、読んでいて穏やかな気持ちにさせてくれました。
物語の中で描かれる、鎌倉の四季折々の情景も、物語の大きな魅力です。鎌倉には行ったことはありませんが、ぜひ訪れて見たくなる、鎌倉の魅力も溢れた本書でありました。
