わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇 / 泉房穂

 石井紘基衆議院議員が2002年10月25日に刺殺された。公式には犯人・伊藤白水の「金銭トラブルによる逆恨み」とされている。しかし、石井が特殊法人や金融不正、カルト宗教問題を追及していたことから、政官財の利権や勢力による「口封じ」暗殺の可能性が強く疑われている。

 2002年10月28日に予定されていた国会質問で石井は「日本がひっくり返るくらい重大なこと」を暴くと公言していた。この質問の事前通告書類を提出する当日に殺害されたため、「口封じ」で殺されたのではないか。そんな憶測がとても詳細に理解できる本書でありました。

 犯人は、金銭トラブルで殺したと言っているのにもかかわらず、石井の所持金には手をつけなかった。質問の事前通告書類と、手帳が未だに見つかっていない。犯行後、犯人はすぐ出頭したため、犯行の捜査が短く終わったため、刑を確定するための捜査ばかりで、殺す原因について、あまり捜査されなかったのだという。

 政治家・石井紘基の政治哲学と、その遺志が今なお持つ意義を、著者の視点と関係者の対談を通じて浮き彫りにできる様々なエピソードが紹介されています。

 犯罪被害者救済や特殊法人問題の追及など、弱者の視点に立ちつつ、官僚国家の利権構造に果敢に切り込んだ。その姿勢は、単なる政治活動を超え、「救民」という信念に基づいています。

 著者が石井の元秘書として間近で見たエピソードから、人間味と不屈の精神が伝わってくるのはもちろんですが、特に、日本の「官僚社会主義」という言葉で表される、特権階級による利権独占の構造を見抜いた石井の洞察力には、とても驚嘆させられるものがありました。

 この視点は、20年以上経った今も、財務省批判に典型するような、格差拡大や行政の硬直化といった形で日本の課題として続いていると感じさせてくれる、そんな内容でありました。

 石井の長女ターニャ氏との対談も紹介されています。父の暗殺という悲劇を家族としてどう受け止めたのか。とても胸を締め付けられるものがありました。父とどのように接し、どんな思いで父を見つめ、暗殺直前に父に起きた出来事など。とてもただの「金銭トラブル」で片付けるには、腑に落ちない点が多々ありました。

 石井が警告した「国家の危機」が現代に現実化している。例えば、国民不在の政策決定や、既得権益を守るための硬直したシステムは、今日の政治不信や社会の分断にも繋がっている。石井の「国民のための政治」という理念は、現代の私たちに何をすべきかを問いかけているようでありました。

 政治家は国のため、国民のためと、口を揃えていうが、石井紘基の遺した問題提起は、現代を生きる私たちにとって、とても大事であり、必要なことではあると思う。しかし、そんな問題提起をすると、暗殺されてしまうという。そんな教訓を世の中に与えてしまったのかもしれないと、そんなことを考えさせられる本書でありました。