田中角栄といえば、「ロッキード事件」「闇将軍」といった金権政治家のイメージが強いが、その一方、議員立法で33もの法案を成立させたり、「日本列島改造論」に代表される国土開発計画の提唱、独自の資源外交など、先見性と構想力に富んだ優れた政策立案者だったことでも知られています。
本書は「政策立案者・田中角栄」にフォーカスし、令和の現代に彼が首相であれば、どのような政策を打ち出して、混迷日本を変えていこうとするかを大胆に予想しています。ともに田中角栄に関する著書を持つ、田原総一朗さんと、日本経済新聞の前野雅弥さんの共著になっています。
田中角栄に関する本はいろいろ読みましたが、一番印象に残っているのは「天才/石原慎太郎」です。一人称で田中の生涯を石原慎太郎が描いていますが、田中が石原に対する皮肉めいた言葉を発するあたりなど、「石原慎太郎は天才」ではないか。そんな感銘を受けたのを今でも覚えています。
石原慎太郎は当時は田中を批判していた。田原総一朗が「天才」を刊行したあと、石原と話す機会があったという。その時、石原は「今となっては、当時、田中角栄の言っていることは、すべて正しかった。」
田中の魅力は「人間としての魅力」だとよく言われる。官僚の誕生日や、結婚記念日や子供の誕生日など。現金(小遣い)を渡していたということは、様々な本でも書かれています。
官僚に「カネをやるから文句を言うな!」と、自らは圧倒的な行動力で、たくさんの議員立法や、政策の立案から実行まで成し遂げていったことが、本書でも十分感じることができました。
ではなぜ田中角栄のようなリーダーが、現在は登場しないのか。それは時代背景も大きいという。戦後、間もない、何も無い人口が増えていたフェーズ。それに比べて、現在は物に溢れ、守るものがたくさんあるので、なかなか田中角栄のようなリーダーは出てこないのでは無いかと著者はいう。
日中国交正常化を成し遂げ、オイルショックを乗り越えることができたのは、田中角栄が存在していたのはとても大きいだろう。少しくらいダーティーでもいい。こんな実行力のある、素敵な政治家が登場することを願いたいことはもちろんですが、少しのホコリが出たくらいで、叩きのめす体質の報道こそ、いい加減にして欲しいと再確認させてくれました。