主人公の小鳥のささやかな楽しみは、仕事の帰り道にお弁当屋さんから漂うおいしそうなにおいをかぐこと。人と接することが得意ではない小鳥は、心惹かれつつも長らく弁当屋のドアを開けられずにいた。
 セックス依存症の母親など、家族に恵まれず、生きる術も住む場所もなかった18歳の小鳥に、病を得た自身の介護を仕事として依頼してきたのは、小鳥の父親だというコジマさんだった。遺産もすべて渡すので自分の介護をして欲しい。
 病によって衰え、コミュニケーションが難しくなっていくのと反比例するように、少しずつ心が通いあうようにもなっていたが、ある日出勤すると、コジマさんは眠るように亡くなっていた。
その帰り、小鳥は初めてお弁当屋さんのドアを開ける。小鳥とは違うが似た境遇をもつ、店主のリムジン(理夢人)と、どんどん親しくなっていく。
リムジンの人柄というか性格がなんとも素敵で、小鳥をとても大事に、そして繊細に接しながら結局、男と女の関係になるんですが、その行為のことを「凹凸(おうとつ)」と呼んでいるのがなんとも良い。(笑)
幼少期の悲惨な状態から、リムジンと出会ってからは、青春キュンキュンな感じになっていくんですが、弁当屋が舞台の中心になっていくということもあり、食べ物や飲み物がとてもなんとも美味しそうです。小川糸さんの作品は本書で4冊目ですが、やっぱり食べ物の描き方はとても素敵だと、前書を思い出させてくれました。
小鳥が中学生のときに唯一仲良くなった、中1で出産するというすんごい体験をした三船という子が自殺するという展開があるんですが、その原因がさっぱりわからなくて、しばらくモヤモヤしました。
小鳥が小島さんの養子になって「小島小鳥(こじまことり)」という、漫才師のような名前になるんですが、だれもそのことに対してツッコミを入れて来ないのは、少しハテナでございました。
 レビューでこんなことを書いている人がいました。
 世の中、遊びの性や娯楽の性、売り物の性が氾濫しています。この本により本当の性の意味、人間同士の深い理解や愛情を表現するものであり、癒しであり信頼であり安心であることを理解することができました。
私はこんなきれいなことは、書けないし書く気もありませんが、ちゃんと似たようなことは思いました。(笑)
