博物学者であり小説家としても知られる著者が、77歳の今も実践する「勉強の技術」を通じて、現代社会の「即効性」偏重に一石を投じる一冊です。角川武蔵野ミュージアム「荒俣ワンダー秘宝館」で注目を集める著者の博覧強記な知識と独自の人生哲学が、読者に「学びの本質」を考えさせます。
本書は、AIやスマホ検索に代表される「すぐ役立つ」知識の限界を指摘し、「無理」「無茶」「無駄」を楽しむことで人生を豊かにする学び方を提案しています。本書の核となるのは、著者の提唱する「0点主義」です。
これは、世間の評価や即時的な成果を気にせず、好きなことや一見無駄に見えることに没頭する姿勢を指します。荒俣さんは、自身の「狂気」の収集癖や、風呂やトイレでも読み続ける膨大な蔵書生活を例に、好奇心を原動力とした学びが、長期的に独自の価値を生むと説きます。特に、スマホで得られる即席の情報は「2~3分で忘れる」と断じ、深い読書や偶然の出会いを重視する姿勢に共感しました。
現代社会では、効率や成果を求めがちですが、著者の「人生丸儲け」という楽観的な視点は、肩の力を抜いて学ぶ楽しさを思い出させてくれます。
印象的だったのは、第9章の「最強の勉強法は読書、場所はトイレと風呂と喫茶店」という主張です。荒俣さんが一日12時間も本を読み続ける姿は、常人には真似しづらいものの、場所や時間を問わず好奇心を追求する姿勢は参考になりました。
私自身、普段は効率的に情報を集めようとしがちですが、本書を読んで、興味の赴くままに本を手に取る時間を増やしてみようと思いました。また、「あきらめる力」を強調する第8章では、何かを手放すことで新たな可能性に余裕が生まれるという考えが新鮮でした。例えば、完璧主義を捨てて「間違える権利」を受け入れることで、学びが楽しくなるという点は、日常の勉強や仕事にも応用できそうです。
一方で、著者の主張は時に極端に感じられる部分もありました。「情報整理はいらない」という第5章の考えは、確かに自由な発想を促す一方、実際の生活ではある程度の整理が必要な場面もあるのではないかと疑問が残りました。また、荒俣さんの膨大な知識量や独特なキャリアは、一般の読者にとって再現が難しい面もあり、具体的な実践方法がもう少し欲しかったと感じます。それでも、著者の明るくマニアックな語り口は、読んでいて純粋に楽しく、知的好奇心を刺激されました。
本書を通じて、「すぐ役立つ」知識に頼るのではなく、好きなことに没頭する大切さを学びました。特に、AI時代において人間らしい学びとは何か、考えるきっかけになりました。この本は、効率至上主義に疲れた人や、自分の興味を追求したい人にぜひおすすめしたい一冊です。荒俣さんの「バカと言われるようなことに邁進せよ」というメッセージは、私の学びに対する視点を大きく変えてくれるものでした。