日本人の賃金を上げる唯一の方法 / 原田泰


 賃金や1人当たりGDPが、日本は先進国最低レベルとなった。こんな状況に対し賃金を上げ、成長するためには成長戦略や構造改革。そんなことをよく聞く。

 しかしそれらは抽象的で曖昧であり、中身が伴っていないことが多く、実際はノーベル経済学賞をとった人にも、成長率を上げる方法はよく分からない。

 賃金が上がらないのは、企業が儲かっても内部留保だけして労働者に還元しないからだという話もよく聞く。しかし、すべての賃金とすべての利潤を合計したGDP、日本の1人当たりの実質GDPは、他の国と比べて伸びていない。

 では、どうすれば日本人の給料は上がるのか。生産性、為替、財政、あらゆる角度から過去の振り返り、他国はどうか、日本に何が足りていないのか。

 「日本はGAFAを生み出せていないからダメ」という人がいる。しかし、GAFAに類する産業がなくても欧州や台湾は賃金が上がっている。今の日本は全くアメリカに追いつくどころか、置いてきぼりをくっている。日本は進んでいて世界の中でも優れている。そんな幻想が成長の邪魔をしているという。

 そして「悪い円安論」も相乗効果を発揮している。日本は安い国になったと悲観的にいうが、かつて日本は円高でも不況を経験している。単純に輸入と輸出のバランスの問題だと著者はいう。海外から買ってばかりで、海外にものを売ることができない国になってしまった。

 金融財政支出を有効なものに実施し、人手不足をつくり出せば良いという。そうすれば資本蓄積がされ、生産性向上して賃金増に転じていく。財政支出と聞くとすぐに「国の借金」となげく人もいるだろう。

 著者は断言しています。財政黒字がよいことで財政赤字が悪いことではない。よくギリシャを例に、財政赤字を悪者に仕立てる風潮があるが、ギリシャは2009年の政権交代で旧政権が財政赤字を粉飾して少なくしていたことを暴き、財政黒字にしようとした。財政赤字を減らそうとしたために破綻した。日本で言えば、国債の発行を少なくすればするほど、国民は貧しくなって行く。まさにここ30年の日本ではないか。笑

 人手不足が良いことだという著者。外国人技能実習生にも触れていた。海外から実習生という名の、移民ではないという建前の安い労働力を受け入れることを、政府は推奨している。そんな海外の安い労働力が40万人も現在の日本にはいるという。そんなにいれば日本人の給料は上がりにくくなるのは当たり前では無いかと私も思う。

 そしてこんなことを繰り返し、安い日本を維持していたら、日本に稼ぎに来る外国人などいなくなってしまう。もちろん「人手不足」は問題です。しかしそれは昔の流儀を維持するには問題であるが、新しい「生産性向上から賃金増へのプロセス」と考えることにより、少し前向きにさせてくれる本書でありました。

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