「公益」資本主義_英米型資本主義の終焉/原丈人

 米国が推進してきた株主資本主義。中国共産党が主導してきた共産主義も今世紀には変化せざるを得ない時期に来ているという。

 両国とも絶対的多数の国民を豊かにすることができなくなっている。背景には「会社は株主のもの」という米国流の企業統治の在り方が、米国のみならず中国の民間企業でも一般化している。

 「会社は株主のもの」と信じる人々は、同じ利益を生むならば短い期間でカネがカネを生むことを追求する。投資は投機へ変化していく。

 投機はバブルを作り出しやがて崩壊に至る。そして、崩壊の過程でゼロサムゲームが起こり、これが繰り返されることで、中間層が没落して貧困層となり、彼らの富は富裕層に吸い取られることでますます格差が拡大してしまう。

 これが今日の超格差社会を作った大きな要因の1つであり、株主資本主義がもたらした結果だという。

  日本の現況は悲惨で、平均年収は30年間増えていない。実質賃金は10%下落し、非正規雇用が増えているため、賃金の格差は広がり、40代の非正規の男性の8割近くが結婚していない。

 一方、正規雇用で結婚している世代の出産率は現在も人口増加時期の1970年代と変わらない。40代以下の非正規雇用者を全員正規雇用にすれば、格差の問題も少子化の問題も解決する。

  1980年代末から90年代前半にかけて、日本の1人当たりのGDPは米国より上だった。ところが、失われた30年の間に勤労者1人当たりの所得は韓国にも抜かれ貧しくなってしまった。

 ここ数年、世界中の旅行者が日本に来るのは、物価も宿泊費も食事もサービスも安いから。清潔で安全だということもあるが、先進国の中で唯一日本だけ途上国化し、国民は貧しくなっているのが現実。 

 会社が儲かっていないならば従業員の給与が上がらないという理屈はわかるが、2000年以降、会社が上げる利益は伸びていて、株主に配分される割合が大幅に増えている。2010年から2021年まで全産業の純利益は、22.1兆円から77.5兆円と351%も伸びていたが、従業員や役員の給与や研究開発費は増えていない。

 株主還元のみが大幅に増えており、配当は12.6兆円から35.5兆円と282%も異常に伸びている。株主への分配を少しだけ従業員に回せば、給与を大幅に増やすことは可能であり、昇給や研究開発を抑えて配当のみを増やすような企業行動は改めなければならないという。

 公益資本主義の「公益」とは、私たち及び子孫の経済的・精神的豊かさを指す。そもそも会社は「社会の公器」であり、事業を通して社会に貢献するために存在している。企業活動は人材、お金、土地、モノといった資源を社会から預かり活動の源泉とするものでなければならない。生み出した利潤は株主だけではなく、従業員やその家族、顧客、仕入先、地域社会、地球といった、関わる「社中」すべてに分配しなければならない。 

 企業が自社株買いを行なうと、発行済み株式の総数が減る。1株あたりの資産価値やROEが上がるので、株主の利益が増すことになる。したがって一般に、自社株買いを定期的に行なう企業は株主を大事にしているとみなされ、投資家の間で人気が上がる。

 こんな数字が紹介されていた。

IBM_113% 
マイクロソフト_119%
ヒューレット・パッカード_168%
ファイザー_137%
タイム・ワーナー_280%
ディズニー_100%

 マイクロソフトを例にわかりやすく言えば、「当期総利益に対する株式配当と自社株買いの総額の比率」が119%とは、税引き後の利益が100億円あったとすると、その他に19億円の内部留保を崩すか、外部から借入をして、119億円を株主に配っていることを意味する。

 ヒューレット・パッカードは内部留保をもう使い果たしているので、社債を発行するか借入までして68億円を調達して、168億円を株主に配っている計算になる。

 IBMは、15年7~9月期に、14四半期連続で減収を記録したにもかかわらず、その後も自社株買いの枠を40億ドル分追加し、64億ドル分の自社株買いをすると決めているという。

 どの企業も、株主に媚を売っているだけで、企業としていつまで存続できるのか。まさしく、「株主こそ一番偉い王様」状態です。王様にとって都合の悪い行ないはすべて禁止であり、王様に富を吸い上げるなら何をしてもOK。これが「株主資本主義における正しいコーポレート・ガバナンス」の実態だという。

 著者が三橋貴明のYouTubeに出演していたが、三橋さんも「借金してまで株主配当するんですか?」このことについて触れていました。私も全く同感で、株主配当は利益の配分であるべきであり、株主配当より前に設備投資や従業員に還元すべきだと強く思う。

 「キャピタルゲイン」について触れておりました。デイトレードのような短期保有のものは税率をもっと高くして、5年以上の長期保有のものは税率を下げるべきだとか、株式本来の役割からすればそれはとても妥当なことなのかもしれません。

  私は知らなかった、株や為替のHFT(超高速取引)を紹介していた。超高速取引は、投資プログラムを組み込んだコンピュータや人工知能が、所定の条件が満たされた途端に数千分の1秒というスピードで自動的に株を売買するシステム。いまや東京証券取引所の注文の7割を占めているという。

 本書はKindle Unlimitedでも無く、Audibleでもなく、ちゃんと購入して読みました。しかし、なんで買ったのか覚えていない。酒を飲みながら何かを見て、読んでみたいと思い購入したのだろう。しかし、あらためて読んでみてとても勉強になったと思ったので、酔っぱらい本ポチリも悪いものではないなと、そんなことを思わせてくれる本書でありました。

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