夏美のホタル/森沢明夫

写真家を目指す主人公。卒業制作のために彼女と田舎で立ち寄った商店で出会ったおじいさんとおばあさん。交流を深めそこで暮らす人々とも互いに様々な感情を刺激されていくというお話です。

写真家を目指すと言うことで、カメラ。彼女のバイク。田舎暮らし。そんなアイテムが好きな人にはキュンキュン来ることでしょう。

私はカメラも興味があるので、かなりイメージすることが出来ました.。その時々で選ぶレンスやISO感度など。知識がある分、情景が浮かぶと言うか、カメラあるあるな場面が多々ありました。笑

田舎の情景描写というか、私が田舎者だからなのかわかりませんが、場面場面の風景など、自分の知っている風景と重ねることが出来るような。そんな感じでお見事です。田舎の風景がくっきりと、こんな風に描写出来たら、宮古の素敵なところもうまく紹介出来るのではないか。そんなことすら考えさせてくれるようでした。笑

森沢作品の印象で残っているのは「バイク&便意」です。本書でも出会いのキッカケは便意だったし「虹の岬の喫茶」でも、喫茶店に行くキッカケになったのは便意だったような気がします。ウンコたれのわたしとしては、それだけで親近感の湧く内容でありました。

あとがきで著者はこのような事を書いています。

人生は、ひたすら出会いと別れの連続です。 どうせなら、別れがとことん淋しくなるように、出会った人とは親しく付き合っていきたいですし、そのためにも、いつか必ず訪れる別れのときを想いながら、自分の目の前に現れてくれた人との「一瞬のいま」を慈しみたいと思います。

別れはもちろん悲しいが、それは出会った人と、親密な付き合いがあればこそ悲しいものです。悲しくなるのが嫌なのであれば、誰とも深い付き合いをしなければ済むだろう。しかし自分が別れを切り出す側。自分が死んだとき、悲しんでくれる人がいれば嬉しいだろう。

自分がそう思うなら、親密な付き合いをして、その人との別れが悲しい。そんな風に思える人をたくさん持つことは、自分の人生を豊かにするには不可欠なものではないのか。そんな風に思える、大変心に刺さる1冊でありました。

本書は映画化されています。You Tubeで予告編とか見ましたが、主人公は彼氏から彼女に変わっていたし、原書では彼氏がカメラを持っていたのに、夏美役の有村架純がカメラを持っていた。さらに、バイクに乗っているのは彼氏の方だった。

原書とはだいぶ違う感じだったので、きっと見ないでしょう。笑

30 th in October / 298 th in 2022