啓文堂書店「2020文庫大賞」受賞。
お見事でした。笑
物語は、2004年、北関東で幕が上がる。世間を騒がせた「宇都宮女性連続殺人事件」の容疑者・林竜一が、警察署のトイレから脱走した。
その三日後、宇都宮市から約75キロ離れた前林市で、深夜に警察が不審人物を発見、職務質問しようとしたところ相手が自転車に乗ったまま逃走、駐車中のトラックに衝突して死亡するという悲劇が起きた。
死んだのは男子中学生の水野大樹。林容疑者とは何の関係もない、とばっちりとしか言いようがない死だったが、この出来事は大樹の家族、特に母親のいづみの人生を一変させる。
いづみはそれまでずっと、自分を誰よりも幸福な母親だと思っていた。だが、大樹が深夜に外出していた理由が不明だったことから、水野家は世間のいわれなき誹謗を受ける。その中で、いづみの心は深い悲しみに囚われ、夫の克夫や娘の沙良にまで憤りをぶつけるようになる。
主にいづみの視点から描かれているので、読者は自然と、彼女に感情移入するかたちで読み進めることになる。しかし、まだ大樹が死ぬ前、「私を見て! 私はこんなに幸せなんだよ!」と、まるで自分は幸せだ、幸せだと言い聞かせるかのような心理状態の描写の時点で、いづみにどこか歪なものを感じる読者もいるだろう。
また、娘の沙良の視点が挟み込まれることで、いづみの母性は相対化されることになる。そして、自分の中の理想の家庭像を破壊されたいづみの心理状態が常軌を逸してゆくあたりから、読者も「これは危ないぞ」と感じるようになるのではないか。案の定、彼女はとんでもない行動に出てしまう。
この出来事から、歳月は流れて2019年。東京都新宿区のアパートで、小峰朱里という女性が何者かに殺害され、彼女の不倫相手である百井辰彦が行方不明となった。
現場近くの防犯カメラに辰彦の姿が映っていたこともあり、警察は重要参考人として彼の足取りを追う。この事件で否応なしに複雑な立場に置かれたのが、辰彦の母の智恵と、妻の野々子だ。智恵は、素直でおっとりしていると思っていた野々子の言動に違和感を覚えるようになり、やがて疑心暗鬼に駆られてゆく。
一方、野々子は実家の母親・瑤子のもとにまで警察がやってきたと知り、自分と母親が共有しているある秘密を思い出していた。こうして、辰彦不在の百井家は少しずつ崩壊へと向かう。
あとがきのコピペです。笑 すいません。笑
内容はもちろん、あとがきも素晴らしいです。ミステリーはホントおもしろい。そんな事を感じさせてくれる1冊でありました。
26th in July / 206th in 2022