存在のすべてを / 塩田武士

 本書は本屋大賞2024、3位の作品です。本屋大賞関連読書の連鎖が止まりませんが、やはりノミネートされる作品はなにを読んでもハズレが無いようです。(笑)

 平成3(1991)年に神奈川県下で発生した「二児同時誘拐事件」。小6と4歳の男児が別々に誘拐されるという前代未聞の事態に捜査本部は混乱。小6男児は無事保護されたものの、4歳の内藤亮は行方不明のまま生存は絶望視される。

 ところが3年後、亮は元気な姿で祖父母のもとに帰って来た。大人になった彼は気鋭の画家として脚光を浴びるが、空白の3年については口を閉ざし続ける。一体何があったのか・・・30年前の謎を解き明かそうとする新聞記者・門田(もんでん)が丹念な取材の末にたどりついた真実とは? そして孤高の写実画家が描く「実」への想いとは。

 誘拐事件に始まり、慌ただしく様々な出来事が起きますが、後半は前半のいろんな点がつながって線になっていくという、種明かしがたくさんある印象です。

 二児同時誘拐事件から始まり生き残った少年と、ある画家夫婦の空白の三年間。犯罪から始まる物語ではありますが、切なさと愛しさと優しさが、凝縮しているというかなんというか、とても不思議な感じです。

 登場人物が結構多いことと、物語が複雑なこともあり、少し難解でしたが、印象的な登場人物が多いのがとても印象的な物語でございました。複雑な物語のため、きっと自分の頭から抜け落ちているところがたくさんあると思うので、気が向いたときにでもまた読みかえしたいと思います。

5月12冊目_2025年132冊目