よくがんばりました。/ 喜多川泰


 中学校教師の主人公。コロナ禍でのリモート授業。見えないところで誰が見ているのかわからない、そんなプレッシャーのことが描かれていました。そんなことは考えたこともなかったが、確かにそんな重圧も存在することを知ることができた。笑


 ある日、警察から学校への電話。父が死んだという連絡だった。主人公は38年前、母とともに愛媛から父を捨て上京して会っていなかったが、先生たちの説得もあり渋々、愛媛に向かうことにする。

 そもそも何故、連絡先も知らないはずなのに、自分に連絡が来たのか。そこで連絡先を提供した女性と出会う。自分は父との良い思い出は何も無く、母と逃げ出した不幸は人間だと思い込んでいた。しかし、父に感謝しているという、その女性はもっと不幸な境遇を持っていた。

 目次はこんな感じです。

春の風のようなひかり 1978
パノプティコン 2022
湊哲治 2022
離郷 1984
故郷 2022
祭りの記憶 
御旅所 1982
真鍋陽子 2022
ひかりに照らされて
宮出し 2022
人の凄み 2022
御旅所 2022
同行二人 1984
あとがき

 1970年代の後半と、2022年の登場人物のエピソードが、いったりきたりしています。しかし、目次に時系列が入っていることで、あまり頭がごちゃごちゃしないどころか、昔のエピソードが直前にあることで、よりわかりやすい感じです。とても考えられて編集しているんだなと、妙に感心してしまいました。笑

 父が死んで帰郷した際に、子どもの頃の「唯一のいい思い出」、「西条祭り」に遭遇します。自分が参加して楽しんだ子供時代の記憶や、現在の自分とオーバーラップしていく様子や、とても臨場感が伝わって来る感じが、とても素晴らしかったです。

 喜多川作品に共通することですが、心を打つ言葉はたくさんあるし、目頭が熱くなることもあるし、躍動感も特に祭りの感じがよく出ているし、とても感動的であるのはもちろんですが「親子の絆」を今回は、特に感じさせて頂きました。

 喜多川さんの本は、必ず読書の素晴らしさを伝えてくれます。本書では無くなった父がやっていた仕事が「貸本屋」です。主人公が子どもの頃は、拾った漫画を金をとって貸していたりしていたが、最後は「旅する本の港」になっていたという。

 本で繋がる出会いや、自分が変わるというか成長など。本書では本を読んで今までの自分が変わることを「人殺し」という物騒なキーワードで表現していますが、それはそれで物語のエッセンスになっており、喜多川泰、やっぱりすげぇ〜!! そんな作品でございました。笑

9月17冊目_2024年167冊目