One World/喜多川泰


 短編集のようで、すべての短編がつながっていて、長編になっています。最後の短編も、最初の短編につながっているという、初めての体験でしたが、どれもこれも素晴らしく、ほっこりしたり涙したりと、とてもすばらしい作品でございました。

■ユニフォーム
 少年野球で万年補欠の男の子。野球を大好きにしてくれたコーチとの話です。

■ルームサービス
 コーチが学生時代、アルバイト先で影響を与えてくれた社長の話です。働くとはどういうことか。自分にできることで、誰かを幸せにする行為が、働くということ。より幸せを与えることで、得るものが増える。

■卒業アルバム
 社長の息子の卒業式に参加する話です。卒業アルバムに書いてあった、担任先生の素敵なメッセージ。

■ホワイトバレンタイン
 担任先生が学生時代、男にフラレてバスで帰る途中、車中で出会った励ましてくれた年配男性。苦悩に出会うたび、これがあったから、今の幸せがあると断言できる未来になると励ましてもらう。

■超能力彼氏
 この物語は誰と関係しているのか? よくわからないまま読み進める。街コンで出会った男女が出会いプロポーズ。そのプロポーズ現場に登場するのが、前の話でバス中で会った年配男性という展開。

■ラッキーボーイ
 前の話でプロポーズした男の学生時代の話。大学を好きになろうと思ったから掃除をする。自分が大切にすれば、大好きになる。偶然の出会いはどんな瞬間でも起きる。相手になにかあげられる何かを持っている人でありたい。そんな姿勢に感銘を受けた友人がいた。

■夢の国
 ラッキーボーイに感銘を受けた友人がアルバイトを辞める話です。辞める過程でいろいろな話をしてくる同僚がいます。中国からの留学生にも声を掛けるが、日本の素晴らしさ、自分の居場所を大切にすることなど、自分があまり感じえない日常に感謝することを教わる。

■「どうぞ」
 中国からの留学生のお話です。祖父の代から日本の文化や素晴らしさについて、教えこまれていた。来日後、教えられていた日本の素晴らしさを体感します。電車に乗ったとき、隣の高校生が老人に席を譲るのを見て感銘。自分もやりたくて、覚えたての初めて使った言葉「どうぞ」。

■恋の力
 隣の席を譲った高校生の青春ラブロマンス。喜多川作品によく見られる青春キュンキュン全開でございました。このときの相手の彼女が、最初のお話「ユニホーム」の万年補欠の男の子のお母さんという、そんな素晴らしい展開です。

 人生の主役は自分ですが、自分は誰かの脇役になったとき、私は主役に何かしらの役に立てるのだろうか。苦悩が目の前に訪れたとき、将来の幸せの糧として前向きに受け入れることができるのだろうか。

 喜多川泰さんの本はたぶん、これで全部読みました。どの本を読んでも本当にあっぱれです。出会いを大切にしなければならないことや、読書の大切さについて。その中に登場する「青春キュンキュン」など。むかし読んだものも、また読み返したくなる衝動にかられてしまいました。

9月15冊目_2024年165冊目