移民の受け入れについて抵抗が激しい日本では「実習」を名目とした技能実習生や「留学」を建前にアルバイトする偽装留学生が、日本の実質的な外国人労働者として雇用される機会が当たり前のものになっている。
少子高齢化とデフレ経済が進むなか、日本の労働現場は安価な労働力を大量に必要としており、私達の快適で便利、そして安価な生活は、日本人だけでは成り立たなくなってしまった。
現代の日本社会には、彼らの労働によって成り立っている部分が間違いなくある。チェーン居酒屋の料理やコンビニ弁当が安価に抑えられているのも、技能実習生が製造に関わることで人件費が抑制されているからだという。
日本のメディアは全く報じませんが、この制度は「現代の奴隷制」と国連から警告を受けているという、話をなにかの本で読んだときがある。
日本人でも職場を突然辞める人がいるように、技能実習生もそんな環境から逃げ出す人がいたとしてもなんの不思議ではない。その中の一部の人間が犯罪を犯したとしても、私たちは彼らのことを一方的に責め立てることはできないのではないかと著者はいう。
そんな最初の職場からドロップアウトしたベトナム人たちに、著者自身が手土産を持参して、何十回も酒を酌み交わし、取材したルポルタージュになっています。
「ボドイ」と呼ばれる不法滞在ベトナム人。兵士を意味するベトナム語だが、多くは在留資格を失った元技能実習生をそう呼ばれているのだという。
彼らが職場から逃げ出した場合、別の環境でまじめに働く人もいるが、行きあたりばったりの行動の末、犯罪に手を染める人も生まれてしまう。
不法滞在から始まり、不法就労、無免許運転、違法な車両入手、ひき逃げ死亡事故、賭博、拉致、家畜や果物の窃盗、薬物濫用、売春、殺人、常磐線の軌道内に自動車で突撃、地下銀行の運営などなど、ボドイが巻き起こすトラブルは多岐にわたる。そして、それらの多くは私たち日本人の常識とは大きくかけ離れているという。
何もしないで待っているだけでボドイはいなくなると著者は推測する。簡単な話で、かつて中国人たちがいた場所にベトナム人がやってきてボドイになったように、その先はまた別の外国人がやってきて、同じような存在になるという。
つまり日本の労働現場が現在のような形である限り、いま北関東にある「移民」地下社会のような景色は日本国内のさまざまな場所で見られるようになる可能性があるという。果たして、それが私たちの望む社会の姿なのだろうかと著者は説いています。
不法滞在者の多くは、身を隠すためにある程度の都会に居続ける傾向があるという。岩手県ではそんな地域は聞いたことがないが、人数が多くなれば多くなるほど地方都市に移動してくるのかもしれない。そんなことを想像すると、少し恐ろしくなって来ると同時に、技能実習生制度という国際的に避難されている政策は、もう限界に来ているのではないか。そんなことを感じさせてくれる本書でありました。
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